『おばけずき』 泉鏡花 平凡社ライブラリー

 泉鏡花をこよなく愛す東雅夫氏によるアンソロジー。これはいい本だねえ。副題に「鏡花怪異小品集」とあるように、鏡花が遺した膨大な文章の中から、小説だけでなく随筆や談話など様々なジャンルにおける「怪異の神髄」を精選して収録。特に本書の半ばに収録された随筆は、全集でもなければなかなかお目にかかれないもの。特に関東大震災後の様子を描いた3編は貴重。これを読めただけでも本書を買った甲斐があったかな。(これらの随筆を読んでいると、鏡花が「おばけずき」であった理由が何となくわかる気が。)
 鏡花が潔癖症であって、生の食べ物による感染症を病的に恐れていたという事は知っていたが、この随筆を読む限りにおいて、その他にも地震やネズミなど彼の恐怖の対象はいろいろあったようだ。要は「おばけずき」というよりも、生来の「こわがり」だったということかな(笑)。
冒頭の「おばけずきのいわれ少々と処女作」にあるように、人智の及ばない怪異「鬼神力」を恐れるが故、その対抗として「観音力」の福徳を信じるのだという。そのあたりに鏡花が怖い話を求めた“心理的な何か”がありそうだ。

 東雅夫氏は巻末の解説で、岩波文庫版『鏡花短篇集』の編者・川村二郎氏の「(鏡花の小品の特徴は)凝縮した幻視のきらめきを核としている」という言葉を引用しているが、これなどまさに言い得て妙。自分も鏡花の怪談の怖さは“一瞬の描写にこそある”と信じるひとりなので、この意見にはしごく納得がいく。東氏は先述の解説において本書収録の短編小説のうち、「夜釣」のラストシーンの仕上げ方や「怪談女の輪」の中で亡霊の踵だけが見えるシーンを絶賛しているが、自分もこのふたつは背筋がぞくっときていた部分であり、賛同を得たようでなんだかうれしかった。(^^)
 作品が短いからと言って決して怖さが減ずるわけではなく、むしろ話がコンパクトな分だけストレートに伝わってくる感じ。鏡花の作品における特長として、久生十蘭の(うまく仕上がった)短編と共通する “切れの良さ”をぜひとも提案したい気がするな。
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