2012年6月の読了本

『エドガー・アラン・ポー 文学の冒険家』 巽孝之 NHK出版
  *NHKカルチャーラジオ 2012年4月~6月の放送用のテキスト。数年経つと増補改稿して
   NHKブックスとして出版されることが多いのだが、リアルタイムで読むのはまた格別。
   それにしても、生誕200年を過ぎてからまだ新事実が発見され、それによって作品評価が
   180度ひっくり返るとは。ポーはやっぱり凄いなあ。巽さんの文章も相変わらず切れが
   良くて愉しい一冊。
『自然の家』 フランク・ロイド・ライト ちくま学芸文庫
  *アメリカの近代建築の礎を築いた建築家が、晩年に自らの建築理念と平易に説いた本。
『孕むことば』 鴻巣友季子 中公文庫
  *『嵐が丘』の新訳で話題を呼んだ翻訳家によるエッセイ。幼い娘が「言葉」というもの
   を新たに発見して紡いでいく様子に絡めて、翻訳の面白さと難しさを語る。
   『全身翻訳家』で大ファンになったのだが、今回も期待にたがわず好かった。
『エドワード・ゴーリーの愛する12の怪談』 河出文庫
  *ブラックウッド「空家」、ディケンズ「信号手」ジェイコブズ「猿の手」などの有名作
   も収録。このあたりのいわゆる名作といわれるものは、前にも読んだことがあるけど、
   何度読んでもやっぱり面白い。個人的にはM・R・ジェイムズ「古代文字の秘宝」が
   すごく好み。ゴシックホラーの入門書みたいな感じで、どなたにもお薦めできそう。
『十蘭錬金術』 久生十蘭 河出文庫
  *河出文庫オリジナル編集による、物語の名手・久生十蘭の短編集。
『壁抜け男』 エイメ 角川文庫
  *早川書房の『異色作家短編集』のシリーズにも選ばれている、“奇妙な味”の仏作家
   マルセル・エイメの短編集。訳者の中村真一郎氏は『モスラ』の原作者だそうな。
   壁を通り抜ける能力をもった男(表題作)とか、同時に何人にも増えることができる
   女性(「サビーヌ」)とか、一日おきにしかこの世に存在しない男(「死んでいる時
   間」)とか、摩訶不思議な登場人物たちが摩訶不思議な物語を繰り広げる5編を収録。
   少年の冒険を描いた「七里の靴」はとってもいい話。(「変身」と「七里の靴」は
   早川版に未収録だそうなので、古本屋で見かけたら買っても損はしないと思うよ。
『虚構の大地』 ブライアン・W・オールディス ハヤカワ・SF・シリーズ
  *経済学者マルサスの『人口論』(世界に住める最大人数は食料供給の上限値に比例し、
   繁殖の限界値を決めるのは極貧だけ。だから人間はつねに飢餓の線上に生きることに
   なる…という趣旨の本らしい)を、そのまま物語にしたようなディストピア小説。
   『暗い光年』といい『地球の長い午後』といい、この頃のオールディスの作品には救い
   の無いものが多い気が。しかし本書がさほど深刻な雰囲気にならないのは、行き当たり
   ばったりでご都合主義的な主人公ノーランドの存在に依るものが大きい気がする。
   この男のダメっぷりは、イアン・サンソムの『蔵書まるごと消失事件』に出てくる青年
   イスラエルにも匹敵するな(笑)。
『ムーミンパパの思い出』 ヤンソン 講談社文庫
  *ムーミンの原作シリーズを、この年になって順番に読んでいる。本書はムーミンパパが
   自分の若かりし頃の思い出を子供らに語り聞かせるもの。奇想天外な冒険が楽しくて、
   ラストのサプライズもgood。
『差別語からはいる言語学入門』 田中克彦 ちくま学芸文庫
  *差別語をネタに言語学を語った一種のエッセイ。飄々とした語り口だが内容には結構深
   いものが。言葉(単語)自体はある意味を表す手段に過ぎないわけだが、その元には、
   その言葉を使う人の思想がある。さらには言語体系そのものがもつ根本的な物の見方す
   ら関係する場合も。「オトコとオンナ」という言葉すら差別的意味を持つことがあると
   いうのは興味深い。また「片(カタ)○○」という表現がウラル・アルタイ語族に特有
   のもので、単に「ひとつの」という意味ではなく「(本来揃っているはずのものが欠け
   ていて)半分しかない」という意味というのには驚いた。「欠如」という意味合いを
   強力にもつ、英語などでは表現しづらいニュアンスを持った言葉なのだそうだ。
   (「片手落ち」という言葉が「片方の手が落ちてしまった」の意味ではなく「中途半端
   な手落ち(しくじり)」だというのにはなるほど納得。)
   他にも「ハゲ」や「メクラ」「屠殺」といった、かなり慎重に使う必要がある言葉が
   次々と俎上にあげられ、言語というものの多義性が解説される。
『冥途・旅順入城式』 内田百 岩波文庫
  *内田百の代表的な幻想作品。不気味な話がこれでもかと収録されている。(笑)
『トポフィリア』 イーフー・トゥアン ちくま学芸文庫
  *現象学的地理学者を標榜する著者による、人と環境をめぐる考察。題名の元の意味は
   「トポス+フィリア」。直訳すると「場所愛」となるが、著者は「人が特定の場所に
   感じる情緒」の意味で使っている。
『おばけずき』 泉鏡花 平凡社ライブラリー
  *泉鏡花をこよなく愛す東雅夫氏による名アンソロジー。小説や随筆、談話など様々な
   ジャンルの「小品」を収録。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

こんばんは!
六月も、充実したラインナップでしたねー。これだけで十分人生観変わりそうな重さで、羨ましいです。
エドワード・ゴーリーのやつ、ぼくも近いうちに探してみます。

慧さま

どうもです。(^^)
ゴーリー、愉しかったですよー。

6月はほかにも、ホラー専門雑誌『ナイトランド』の創刊2号とか、イギリスの作家ウエイクフィールドの『ゴースト・ハント』とか、怖いもの好きには堪らない月でした。(笑)
(あ、もちろん泉鏡花『おばけずき』もです。)

実は最近出張がめっきり減ってしまって、本を読む時間が少なくなってしまい残念です。
人生変わるかどうかはわかりませんけど、読んで後悔しない本を選びたいもんですよね。(^^)
最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR