『十蘭錬金術』 久生十蘭 河出文庫

 河出書房が得意とする、文庫オリジナル編集による久生十蘭の短篇集。今回は実際の事件や歴史上のエピソードに着想を得た感じの作品が多い。尤もこの作者のこと、どこまでが事実でどこからが創作なのか、虚々実々入り乱れていて良く分からない。(このあたりの愉しみ方は、山田風太郎の明治開化物にも似たところがあるかも。)
 冒頭の小編「彼を殺したが……」の不気味さにはいきなり驚かされる。他には、二人の男の複雑に絡み合った運命を描いて先ほどの山田風太郎を唸らせたという「勝負」や、太平洋戦争の南方を舞台にした「爆風」、それに「公用方秘録二件」に収録された二作品のうち「犬」も気に入った。(*)

   *…「爆風」が終戦前に発表されたというのは驚き。解説にもあったが、よく当局が
     許したものだと思う。また「犬」の方は、幕末に仏蘭西使節が連れてきた白犬を
     巡る、互いの国の威信をかけた駆け引きの話。

 例によって途中で“ブツリ”と切られるものとか、色んな種類の作品が入り混じってはいるが、どれも最後まで一気に読ませる力は相変わらず大したもの。もやもやした気分に“うっちゃりをかける”(by開高健)には、久生十蘭はなかなか向いている作家とみた。今回は私事で色々なことが重なったが、そんな時の憂さを晴らすという意味では、(翻訳家の西崎憲氏にお教え頂いた「怪奇小説が持つ“鎮静作用”」とともに)大変に活用させてもらった。なかなかどうして、音楽や活字のもつ力というのは侮り難いものですぞ、皆さん(笑)。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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