2012年5月の読了本

『魔都』 久生十蘭 朝日文庫
  *著者の最高傑作とも言われる長篇小説。昭和9年の帝都を舞台にした、広義の推理小説
   とでもいえば良いのかな。色々なエピソードが入り混じって同時進行する作風は、
   ウイングフィールドの一連のフロスト警部シリーズを連想した。教養文庫・朝日文庫版
   はともに絶版なので入手するのに苦労したが、頑張って捜した甲斐はあった。
『セックス神話解体新書』 小倉千加子 ちくま文庫
  *ジェンダー論の解説本。『第二の性』よりはよほど読みやすくて好い。本書の主張の全
   てに手放しで賛同するわけではないけれど、自分が持つ「常識(と言う名の偏見)」
   に対する一つのアンチテーゼとすれば、かなり刺激的で面白い。日本語の「性」という
   言葉に3つの意味が混じっているという話は面白かった。まず生物学的・肉体的な性差
   である「セックス」。次いで社会・文化的に作られた、(いわゆる「男らしさ」「女ら
   しさ」といった)性差である「ジェンダー」。そして最後がセックスとジェンダーで
   出来あがっている人間が、(同性も含めた)他者の性別に対して抱く欲望と充足を巡る
   あらゆる行動、「セクシャリティ」。日本語ではこれらすべてが「性」の一言に込めら
   れているのだそう。この知識をもつだけでも考え方は変わる気がするな。
『オセロー』 シェイクスピア 新潮文庫
  *福田恒存訳。そのうち他の訳文と比べてみるのも面白いかも。
『もの食う人びと』 辺見庸 角川文庫
  *世界中を回って様々な「ものを食べる」シーンを取材したノンフィクション。著者は
   ソマリアやチェルノブイリなど過酷な状況で人々が「生きんがために食べる姿」を
   ひたすら“観る”ことに徹している。所詮自分は部外者に過ぎず、当事者たる彼らの心
   の奥底には入り込めない事を承知の上で、それでも感じたままに懸命に表現しようと
   する態度がすがすがしい。開高健の『ベトナム戦記』や『サイゴンの十字架』といった
   ルポルタージュや、松本仁一の『アフリカを食べる/アフリカで寝る』によく似た感じ
   と言えば良いか。スタンスは開高ほど文学寄りでもなく松本ほど社会派でもなく、丁度
   中間的な位置づけの印象。著者がまだ共同通信社に勤めていた頃に書かれた文章との事
   で、これだけの水準のものを毎週配信していたというのは大したものだ。
『ムーミン谷の冬』 トーベ・ヤンソン 講談社文庫
  *正統的な児童文学。原作版ムーミンは大人でも結構嵌まるね。
『私の少年時代』 澁澤龍彦 河出文庫
  *文庫オリジナル編集版のエッセイ集で、今回のテーマは子供時代のあれこれ。買って
   帰ってから裏表紙を見たら、著者の少年時代を書いたエッセイ『狐のだんぶくろ』の
   殆どを収録――ということが書いてあったのでちょっと焦る。さっそく『狐...』を棚
   から引っ張り出して調べてみた。結果、こちらに収録されていなかったのは「蘆原将軍
   のいる学校」「まぼろしのトンネル」「花電車のことなど」「東京大空襲」「帝都を
   あとに颯爽と」「戦前戦後、私の銀座」「私の日本橋」の6篇。一方で本書にしか収録
   されていないのは、「ある雨の日」「ツェッペリン幻想」「カフスボタン」など小編も
   含めて36篇という按配。というわけで、既に『狐のだんぶくろ』を持っている人が買っ
   ても別に損するわけではなかった。同じ文章をもう一度読んだって面白いしね。
   (あれっ、これってまんまと出版社の術中にはまってる?/笑)
『北越雪譜』 鈴木牧之 岩波文庫
  *江戸末期に越後(今の新潟県)は魚沼に住んでいた人物が記す、北国の冬の暮らしぶり
   についての本。
『完本 酔郷譚』 倉橋由美子 河出文庫
  *酒場とそこで供される「魔酒」を題材にした幻想小説。著者の遺作となった。
『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』水木悦子・赤塚りえ子・手塚るみ子 文春文庫
  *水木しげる、赤塚不二夫、手塚治虫の娘3人による「ガールズトーク」。いくつかの
   テーマが錯綜しつつ話は弾む。まずは「父と娘」という話題。娘からみた父親の家族観
   や女性観などについても容赦ない。次にお約束の「有名人を親に持つ子供」としての実
   体験。他には当然「ひとりの漫画家として」という視点も。水木作品における「タナト
   ス/死」に対して手塚作品における「エロス/生の躍動」を指摘するなど、意外にしっ
   かりとした(失礼!)作家論も繰り広げられる。最後は「仕事人(プロ)」として、
   尊敬すべき人生の先達としての父親像。気楽に読み始めたのだけれど、なかなかお買い
   得な本だった。
『旅する人』 玉村豊男 中公文庫
  *人気のエッセイストによる旅のエッセイ。著者がこれまで経験した様々な旅や、「旅す
   ること」についての断章・心象スケッチからなる。モロッコ・アルジェリア・チュニジ
   アの北アフリカ3カ国をヒッチハイクで旅した話や、パリへの留学(この体験はのちに
   『パリ 旅の雑学ノート』として著者のデビュー作となった)、ツアーガイド時代、
   ニューヨークや北京やフィジーなど場所も話題もバラエティに富んでいる。
『人間について』 ボーヴォワール 新潮文庫
  *サルトルの生涯のパートナーであった著者による、実存哲学の視点での人生論。
   (『第二の性』みたいなジェンダーの視点じゃなかった。)
『ポポイ』 倉橋由美子 新潮文庫
  *元首相の自宅へのテロを決行し、自決して介錯された生首「ポポイ」と、ひょんなこと
   からそれを世話することになった元首相の孫娘「舞さん」のなんとも不思議な物語。
   先ごろ読んだ著者の遺作『酔郷譚』に出てきたメンバーが総出演していたのが、なんと
   も嬉しかった。(もっとも、こちらの方が発表は先なんだけどね。)
   いやあ面白い。もっと早くに読んでおけばよかった。
『行動経済学』 友野典男 光文社新書
  *血の通わないロボットにような「経済人」のモデルを元にして作られたものでなく、
   もっと血の通った感情的な人々による経済学の構築を目指す「行動経済学」の入門書。
   概要が簡潔にまとめてあって分かりやすい良書といえる。
『路上探偵事務所』 林丈二 講談社文庫
  *路上観察の達人による「街の変なものカタログ」。この人、本業はイラストレータなの
   だが、それよりも「面白がり屋」と言った方がいい感じ。街を歩いていて気になるモノ
   を見つけると、トコトン食いさがって調べてみるという好奇心は、自分も見習いたい
   もの。『吾輩は猫である』のモデルになった猫の子孫を探したり、怪人二十面相が隠れ
   た(であろう)場所のマンホールを特定してみたり、放し飼いの犬の後を1時間半も追い
   かけたりと、エピソードはどれも大いに愉快。面白いネタを見つけ出す“嗅覚”は何せ
   素晴らしいの一言に尽きる。
『つぶやき岩の秘密』 新田次郎 新潮文庫
  *新田次郎が書いた唯一のジュブナイル。旧日本軍が遺した財宝を巡る一人の少年の成長
   と、彼を見守る大人たちの物語。『宝島』などと同じで、中学生の頃までに読んでおき
   たい一冊。そして大きくなってから池上永一の『ぼくのキャノン』を読めば、愉しさは
   2倍だ。(笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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