『北越雪譜』 鈴木牧之 岩波文庫

 たまに古典と呼ばれる本を無性に読みたくなる。岩波文庫でいえば背表紙が黄色に色分けされているような本。といっても内容があまりにも高尚で難しいのは読めないので(苦笑)、なるだけ易しいやつがいい。たとえば江戸時代も後期あたりの通俗的なものとか。本書は明治開化の20~30年ほどまえに書かれたものだから、そういう意味では丁度いい頃合い。前に松岡正剛氏の千夜千冊で取り上げられ、いつか読もうと買っておいたうちの1冊で、特に理由はないのだが先日ふと読みたくなり、本棚から引っ張りだしてきた。

 本書は豪雪地帯・越後は魚沼に住む著者が、雪国の自然や暮らしの風物について書いた図譜。初編(巻之上/中/下)と、二編(巻之一/二/三/四)よりなっている。
 東北や北陸に関する本といえば、有名な『奥の細道』をはじめとして数多く存在するが、いずれも他の土地の人が旅して書いたものであり、旅が可能な夏の季節が中心となる。まさに「雪まっさかりのシーズン」の雪国を描いたものは、(本書の著者曰く)実は皆無とのこと。魚沼の名士(豪商)であり、俳諧や絵画も玄人が裸足で逃げ出すほどの腕前だった教養人・鈴木牧之という人はそこが不満。それなら自分で書いてしまおうという事になったようだ。
 雪国の住民が自ら書いただけあって、生活の描写はとても生き生きしていて素晴らしい。実は自分も小学生のころの4年間を新潟で過ごしたことがあって、雪の中の生活がどんなものか凡そ想像がつく。昔を思い出しては内容にいちいち頷き、最後までとても愉しみながら読み終えた。以下、中身の話題について順不同にざっと挙げてみよう。

 ・雪の季節ならではの暮らしの知恵(雪を踏み固めて雪道を作るなど)
 ・雪靴や橇といった雪中歩行の道具について
 ・雪の季節の愉しみや遊び(祭や芝居、年越しや“雪ン堂”(かまくら)など)
 ・猟師による雪山の熊狩り
 ・雪崩と吹雪の実態(雪国のひとが一番恐れるもの)
 ・冬のシーズンの地場産業である縮(ちぢみ)織物について
 ・鮭の遡上に伴う鮭漁と鮭料理(雪が降り出すまでの季節が旬)
 ・気象や自然現象について(ツララや天然ガスによる自然発火「雪中の火」など)
 ・夏まで氷室に残した氷を使ってつくる“削氷”(かき氷)

 なかには奇談・綺譚も載っている。
 ・弘智法印の木乃伊(ミイラ)について
 ・狼に襲われた一家の話や、逆に遭難して熊に助けられた話
 ・白熊(アルピノのツキノワグマ)の話
 ・浮嶋(浮き島)の話
 ・「化石谷」(水につけると石灰成分が付着して石化する場所)について
 ・「土中の船」(土の中から発見された謎の船)について

 ところどころには幽霊や妖怪についての話も載っていて、民俗学的な興味以外に幻想怪奇小説のファンとしても愉しむことができた。(今でもUMAとか宇宙人を信じている人がいるように、当時は幽霊や妖怪について「さもありなん」といった感じで、何となく信じられていたのだろうか?)これについても題名をざっと挙げておこう。
 ・「御機屋(おはたや)の霊威」
 ・「狐火」
 ・「雪中の幽霊」と「関山村の毛塚」(女性の幽霊)
 ・「夜光玉」(夜になると怪しげに光る石)
 ・「無縫塔」(変わった形の石が見つかるとなぜかある寺の住職が死ぬ話)
 ・「北高和尚」(葬儀を襲う大猫の妖怪・火車を追い払った僧)
 ・「異獣」(猿に似た謎の生物)

 不勉強の為これまで全く知らなかったのだが、この本はその筋ではかなり有名な本らしいね。文もこなれていて読みやすく、地味だけど(失礼)とても面白い本だった。今度はどんなものを読もうかな。そのうちまた衝動的に読みたく時がくると思うから、今のうちに「とっておきの一冊」を買っておかなくては。(それでは岩波文庫の『江戸怪談集』の上巻が早くリクエスト重版されることを祈りつつ...。/笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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