2012年4月の読了本

 4月は珍しく出張が全くなかったので、身体は楽だったが読書量が減ってしまった。出張が無いというのも痛しかゆしのところがあるね。(笑)

『ムーミン谷の彗星』 トーベ・ヤンソン 講談社文庫
  *ムーミンの原作本を読んだのはこれで2冊目。宇宙から彗星がやってきて世界が滅亡の
   危機に...という話だが、それが徹頭徹尾、子供たちの視点で描かれていて巧い。
   自分が小さかった頃、遠くまでひとりで出掛けて夕暮れになってしまった時の不安な
   気持ちや、見覚えがあるところまで帰りついたときの安堵感などを思い出した。
   冒頭の「ひみつ」ごっこのシーンも愉しい。ほんと、子供というのは「ひみつ」が
   大好きだよね。それにしても、もしもそれを守れなかったら「谷底に落とされてもいい
   くらいのひみつ」って言い草は大袈裟で、いかにも子供が言いそうな...(苦笑)
『ラピスラズリ』 山尾悠子 ちくま文庫
  *一部に熱狂的なファンを持つ幻想小説の書き手による連作短篇集。元本は国書刊行会
   から書き下ろしで出されたものだが、およそ20年ぶりの新作ということでファンの
   間でかなり話題になった。「冬眠者」と呼ばれる人々を巡る物語で、独特の雰囲気が
   味わい深い。
『僕の妻はエイリアン』 泉流星 新潮文庫
  *アスペルガー症候群(高機能自閉症)の夫婦の日常生活を、夫の視点から書いたノン
   フィクション。あとがきまで読み進んでちょっとびっくり。ネット上のカスタマー
   レビューを見ると評価が割れているが、こういった本が手軽に読める出版環境というの
   は、総じて良いことだと思う。
『オブ・ザ・ベースボール』 円城塔 文春文庫
  *いまや芥川賞作家となった著者の出世作となったもので、「文學界」新人賞を受賞した
   作品。個人的には、併録されているもうひとつの短篇「つぎの著者につづく」がとても
   好みだった。巻末につけられた膨大な注釈を眺めるだけでも愉しいのだが、雑誌初出時
   にはこれが一切なかったそうで、よほどの本好きでないと作中に出てくる単語は全くの
   意味不明になりそう。著者が狙いとするメタフィクションの仕掛けを愉しむところまで
   辿りつけないおそれは多分にある(笑)。
『微視的(ちまちま)お宝鑑定団』 東海林さだお 文春文庫
  *いつもの調子の軽いエッセイです。やはり著者の食べ物系のネタは抜群に面白いね。
『民族とナショナリズム』 アーネスト・ゲルナー 岩波書店
  *ナショナリズムに関する研究書としては、B・アンダースン『想像の共同体』とならび
   “必読書”とされる本。前書が社会学者の視点で分析されたものとすれば、本書は哲学
   者の視点でナショナリズム発生の原理を考察したものといえそう。
『闘うレヴィ=ストロース』 渡辺公三 平凡社新書
  *文化人類学者C・レヴィ=ストロースの生涯と思想を丁寧に解説。新書と思い侮って
   読むと、密度の濃さにたじたじとなる。
『テネブラ救援隊』 ハル・クレメント 創元推理文庫
  *異星を舞台にしたハードSF『重力の使命』(別題:重力への挑戦)で有名な著者の、
   高重力惑星テネブラを舞台にした冒険小説。いわゆる「古き良き時代」の作品なの
   だが、ご都合主義的な展開に鼻白んでしまうかというと、決してそんなことはない。
   確かに今の目から見れば「どうだかなあ」という点も散見されるが、それもひっくる
   めて広い心で素直に愉しむ事が出来た。発表当時はリスク管理とかシステム工学とか、
   学際研究といった考え方は浸透していなかったろうし、非常に高度な自然科学とあま
   りにも粗野な社会科学のアンバランスさが見受けられるのは致し方ない。(科学技術
   をもった野蛮人みたいな感じ。)いや、むしろそのようなアンバランスさこそが、
   この時代のSF小説を読む醍醐味だったりして。(笑)
『火の賜物』 リチャード・ランガム NTT出版
  *副題に「ヒトは料理で進化した」あるように、人類進化の引き金が(従来言われていた
   ような)「肉食の開始」や「道具の使用」ではなく、「料理(炎による加熱調理)」に
   よるものとした論考。
『三教指帰』 空海 角川ソフィア文庫
  *「さんごうしいき」あるいは「さんごうしき」と読む。空海が唐に渡る前の青年期に記
   した、仏教に人生を捧げる宣言書のようなもの。とはいっても全然堅苦しくはなく、
   物語の形式をとっている。儒教も道教も実は仏教の一部でしかなく、仏教こそが一生を
   かけて追求すべき価値のあるものだという著者の主張が、端的に著されている。
『乱視読者のSF講義』 若林正 国書刊行会
  *著者は京都大学大学院の教授で専門は英米文学。単なる象牙の塔の研究者ではなく、
   翻訳や本の解説なども書かれる実践派で、自分にとっては高山宏氏などと同様、無防備
   に浸りきって読める“安心印”の人。本書はSFについての文章だけを集めたもので、
   取り上げられている本はちょっと中上級者向けかな。内容自体は論旨もしっかりして
   とても分かりやすいのだが、なにぶんにも対象となった本を読んでいないと興味がわき
   難いと思う。自分は幸いにも殆どの作品を読んでいたので大変に興味深く読めた。特に
   ディレイニーやル=グイン、ディッシュ、レムに関する文章は面白い。またG・ウルフ
   についての文を集めた一章は圧巻。(なんて、SFに興味ない人には何の話か判らんで
   すね。すいません^^;)
『生命の劇場』 J・V・ユクスキュル 講談社学術文庫
  *岩波文庫『生物から見た世界』の著者による、生命哲学に関する本。大学の理事/宗教
   哲学者/画家/動物学者/生命学者の5名が集まって議論をするという物語形式で、
   著者の見解を分かりやすく説明。基本的には動物学者(生命=機械論者)と生命学者
   (著者の分身)の理論対決で、「ダーウィン学説vsヨハネス・ミュラー説」、あるいは
   「生命機械説vs生命主体説」の闘いといった感じ。
   議論が精緻になればなるほど、古臭い感じがしてきてしまうのはやむを得ない。なんせ
   原稿が書かれたのは著者が亡くなった年(1944年)なのだから。DNAすなわち本書で
   いうところの生命の形態を指揮する“総譜(設計図)”も発見されてはおらず、「アポ
   トーシス(細胞の自死)」も発見されていなかった頃のことだ。この時点で生命現象の
   本質にこれだけ肉迫したのは大したもの。(福本伸一氏が『生物と無生物のあいだ』等
   で記した「動的平衡」を思わせるような概念まである。)それにしても「環世界」とい
   う考え方は、後のアフォーダンスの先駆けともいえるもので、実に素晴らしい。邦訳が
   『生物から見た世界』と本書の2冊しかないというのは返すがえすも残念だ。(ただし
   進化論による適者生存の原理を完全否定して、生命体系の永続を主張したのはちょっと
   首肯しかねるけど。)“はしがき”によれば、著者本人が書き上げたのはどうやら8章
   まで。急逝した著者の代わりに遺稿を整理して残りを完成させたのはユクスキュルの妻
   と息子だそうなので、もしかしたら彼らの考えが混じっているのかな。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

レヴィ=ストロース

教えて頂いたちくま新書の「レヴィ=ストロース入門」を
読み始めています。
ありがとうございました。
難解な部分は、舞狂小鬼さまのブログの記事を
拝読して。心強い読書の味方です(^^)。

4月は読書量が減ってしまったと書かれていますが、
わたしが魅かれる本をたくさん読まれていて、
参考にさせて頂きます。











みどりのほし様

おおっ、さっそく『レヴィ=ストロース入門』を読まれているんですね。
拙い紹介記事なので分かりにくいと思います。
ご不明な点などありましたら遠慮なくご質問ください。
知っている限りお答え致しますので。

もっとも、それほど詳しいわけでもないので、
実際にご質問いただいたらお役にたてるかどうか、
はなはだ不安ではありますが...(^^;)

4月に読んだ本の中から、
またぼちぼちと感想を書くつもりです。
ただ、4月の反動でこの連休中に読みまくっていますので、
原稿を書いている暇がなくて困っております(笑)。
最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR