『犬の心臓』 ブルガーコフ 河出書房新社

 前から一度読んでみたかった一冊。1971年の刊行後、長らく絶版状態になっていたが、このたび漸く復刊された。少し値段も高いのでどうしようか迷っていたのだが、近所の本屋で見かけてつい衝動買い。こういうちょっとひねった奇想小説にはどうも弱い。(笑)
 作者のミハイル・ブルガーコフといえば『巨匠とマルガリータ』が何と言っても有名で、ソビエトでは不遇を託ったため著作としてはさほど多くはない。幻想系の作品としては他に岩波文庫『悪魔物語・運命の卵』があるくらい(*)。そちらを読んだ感じでは、ぴりっと風刺が効いて面白い作品を書く人という印象だった。(『巨匠とマルガリータ』も買ってはあるが、こちらはまだ今後の楽しみに残してある。)

   *…正確には『アダムとイブ/至福郷』(群像社)というのもあるが、こちらは戯曲。

 本書の印象をひとことでまとめるなら、「犬人間」(by沼野充義氏)あるいは「現代にあらわれたホムンクルス(錬金術による人造の小人)」の物語といえばいいだろうか。一匹の野良犬がある医学博士によって拾われたのち、生体実験の対象にされた顛末を描き、ソビエト社会に対する痛烈な風刺というスパイスも加えた、グロテスク且つユニークな戯画といった趣き。確かにこんな作品を書けば、当時のソビエトで弾圧を受けたのも理解できる。ただし作者の意図はそこよりも「科学の進歩と人の幸せ」といった、哲学的な考察に主眼があるような感じが。思わず笑ってしまうようなドタバタのくだりも多々あって、最後は後年のある有名な小説にも似た皮肉な“ハッピーエンド”。(ネタばれになるので書名は自重しておこう。)
 うん、悪くないです。
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No title

こんばんは。
ブルガーコフ、初めて聞きました!
「科学の進歩と幸せ」ですかー。
「アルジャーノンに花束を」で天才になった主人公が周囲とのズレに葛藤するシーンがありましたね。あれで、科学と幸せについて、はじめて考えさせられた思い出があります。
新書は確かに手が出ずらい(笑)ので、岩波文庫の方、ぜひチェックしてみます。

ロシア・ファンタスチカ

慧さん、こんばんは。

実は昔から、ロシアのファンタスチカ(ファンタジーやSFっぽいジャンルの小説)が好きなんですよ。欧米とはまた一味違った、暗さというか渋さというか、何とも言えない独特の雰囲気があります。

もしもブルガーコフを読まれて気に入られたら、カヴェーリンとかストルガツキーなんかもいいかも知れません。(ただしどちらも、ちとお高いですけど...。)

ところで、キイス、読まれてたんですね。それなら話が早い。本書のいちばん大きなテーマは、まさにあの本と同じじゃないかと思ってます。(もちろん別のテーマもいろいろ入ってますけど。)

とりあえずは、お安い岩波文庫の『悪魔物語・運命の卵』あたりから、宜しければお試し下さい(^^)。

ではまた。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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