2011年12月の読了本

『ゆみに町ガイドブック』 西崎憲 河出書房新社
  *翻訳家かつアンソロジストにして、ファンタジーノベル大賞の受賞作家でもある著者が
   書いた、ファンタジーでもあり詩でもあり文学でもあるという、ジャンル分類不能な
   小説。少なくとも、普通の意味での「物語」では無い。好きだなあ、こういうの。
   小説と物語の違いとは何だろうか。終わりがあるのが物語で無いのが小説?それとも
   心の中に色んな思いが思い浮かぶのが小説で、波にのまれて流されて、何も考えられ
   ないのが物語?本書を愉しむと同時に、図らずも色々なことを考えてしまった。
『のんのんばあとオレ』 水木しげる ちくま文庫
  *マンガ家の水木しげるが少年期の思い出を語った自伝。「のんのんばあ」とは、氏が
   幼少期に近所に住んでいた“拝み屋”のお婆さんで、まだ幼かった茂少年に、様々な
   妖怪の伝承を刷り込んだ張本人のこと。でも題名にある「のんのんばあ」との思い出
   よりも、どちらかと言えば中身は小学校や放課後の「コドモ界」の話が中心だった。
   著者は子供の頃からかなり破天荒な性格ようだ。低学年までの様子は中勘助の名作
   『銀の匙』とよく似た感じだが、『銀の匙』の主人公が一念発起して、その後ぐっと
   成長していったのに対して、水木氏は全く変わらないまま大人になったよう。
   でも、だからこそあのような作品を描くことが出来たのだろうな。
『ヴェニスの商人』 シェイクスピア 新潮文庫
  *福田恒存訳。有名な物語なのに、裁判の話と婿選びの話が同時進行するとは全く知らな
   かった。やっぱりシェイクスピアくらいはちゃんと読んでおかなければ。(汗)
『澁澤さん家で午後五時にお茶を』 種村季弘 学研M文庫
  *「異端の独文学者」である著者が、「異端の仏文学者」であり朋友であった澁澤龍彦に
   ついて書いた文章を集めた本。書評や対談など内容はバラエティに富むが、澁澤龍彦の
   著作にある程度は触れていないとつらいかもね。しかし学研M文庫、渋すぎる!
『パラダイス・モーテル』 エリック・マコーマック 創元ライブラリ
  *傑作メタフィクション『ミステリウム』の作者・マコーマックのデビュー作。単行本が
   出た時につい見逃してしまい、今回文庫化されたのを機に読んだのだが、これも自分好
   みだった。ただし「痛い話」が苦手な人はちょっと注意が必要かも。
『魂にメスはいらない』 河合隼雄/谷川俊太郎 講談社プラスアルファ文庫
  *ユング派の分析心理学者と詩人による対談集。いや、対談というよりも、“心理学の
   素人”ではあるが“魂のプロ”である詩人が、心のことのあれこれについて心理学者に
   質問したという感じか。
   日本では「悪」という概念はあまりはっきりしておらず、代わりに日本にあるのが
   「穢れ(けがれ)」という概念だという指摘には感心。西洋(キリスト教)的な世界観
   では悪は神に敵対するものだが、日本では穢れであるため「水に流す(=禊ぎ)」と
   いうものが認められるのだとか。うーん、なるほど。
   谷川氏の詩を心理学的に解釈するというボーナス(?)が巻末についている。詩を分析
   した河合氏いわく、谷川氏は「鋼(はがね)のようなやさしさを持った人」なのだそう
   で...。いいなあ、あこがれるなあ。そんな人に自分もなりたい。(笑)
『アスディワル武勲詩』 C・レヴィ=ストロース ちくま学芸文庫
  *カナダの太平洋岸に住む先住民ツィムシアン族に古くから伝わる神話「アスディワル
   (アシ=ホウィル)武勲詩」。その神話に対して構造主義の第一人者である著者が
   構造分析を行った論考。後の大著『神話論理』へとつながっていく記念碑的な著作に
   なっている。漠とした神話のなかに構造のモデルを見つけ出していくその手際の良さ。
   自分にとってはまるで構造分析の“お手本”のような本といえる。
   一番単純な「構造」とは言うまでもなく二項対立だろう。「高と低」「男と女」
   「富と貧」など様々な二項が著者によって次々と明らかにされ、やがてそれが複雑に
   組み合わさってカレイドスコープのような美しい像を見せるようすは圧巻。
   やっぱりレヴィ=ストロースは面白いなあ。
『異界談義』 小松和彦/京極夏彦/池上良正・他 角川書店
  *2001年に国立歴史民族博物館で企画展示「異界万華鏡―あの世・妖怪・占い―」が開か
   れた。本書はその企画に関連して開催されたフォーラムや講演会の記録集。様々な種類
   の報告および対談が収録されていて内容は多岐に亘る。
『怪奇小説傑作集5』 エーベルス他 創元推理文庫
  *海外の怪奇小説を国別に集めた傑作選の5巻目で、本巻にはドイツ編とロシア編が収録
   されている。自分の一番のお目当てはロシア民話に題材をとったゴーゴリの「妖女
   (ヴィイ)」だったのだが、(当初の期待通り)本書でいちばん気に入った。他で良か
   ったのは、クライストの「ロカルノの女乞食」(正統的な幽霊譚ショート・ショート)
   に、レミゾフの「犠牲」(異様に明るい貴族に隠された不気味な謎)あたりか。悪魔と
   契約を結んだ盗賊の物語を描いた、ホフマンの「イグナーツ・デンナー」も悪くない。
『古本道入門』 岡崎武志 中公新書ラクレ
  *均一小僧の異名をとる著者による最新作で、著者の古本に関する蘊蓄の集大成。古本
   ライフの愉しみ方や、全国の有名な古書街の案内など、資料的な内容が初心者にも判り
   やすくまとまっている。
『ユダの福音書を追え』 ハーバート・クロスニー 日経ナショナル ジオグラフィック社
  *「イスカリオテのユダ」といえばイエスを金で売った裏切り者。新約聖書で悪名高い
   この人物の「ユダ」という響きが、ユダヤ民族の印象を悪くするのに一役かってきたの
   は間違いのないところ。実はそのユダの“裏切り”が「イエスを裏切ったわけでなく、
   イエスの望んだとおりにしただけ」であり、「使徒の中でユダだけがイエスの教えの
   真実を理解していたから」だとしたらどうだろう。そしてそのような教えが福音書の形
   で現代まで残されているとしたら。現在のキリスト教の世界観が文字通りひっくり返る
   ほどの大発見になることは間違いない。――そして2006年にそれは実際にあったのだ。
   (当時ニュースで見て大変驚いたのを今でも覚えている。)本書は「ユダの福音書」が
   発見されてから約30年間に亘る、数奇な運命を克明に追ったドキュメント。
   構成が悪くてちょっと読みにくいが内容は面白い。
『包まれるヒト』 佐々木正人/編 岩波書店
  *編者は『アフォーダンス入門』(講談社学術文庫)を書いている生態心理学者。副題に
   「<環境>の存在論」とあるが、執筆者は作業療法士や哲学者、写真家に小説化など
   様々に亘り、まさに理系と文系の垣根を超えた学際的な研究の書。題名にある「ヒトが
   包まれているもの」は何かというと、「サーフェス(≒森羅万象の表面の肌理)」や
   「空気(光、音、温度などの情報を運ぶもの)」。本書ではこれらを総称して環境と
   呼んでいる。
『先生と僕』 坂木司 双葉文庫
  *最近は『ビブリア古書堂シリーズ』のように、ブックガイドを兼ねたミステリが流行の
   ようだ。本書は大学生の“僕”と中学生の“先生”が登場する「日常の謎」タイプの
   ミステリで、同時にミステリガイドでもある。この手の本は気取らずさらっと読めて
   好い。(自分にとってはおやつみたいな感じ。)
『饗宴』 プラトーン 新潮文庫
  *誰もが名は聞いたことがある古代ギリシャの哲学者プラトンだが、(恥ずかしながら)
   著作を今まで一冊も読んだこと無かった。今回初めて読んでみたのだが、いやこれは
   面白い。哲学書というよりよくできた小説みたい。
『アダムとイヴ/至福郷』 ミハイル・ブルガーコフ 群像社
  *『巨匠とマルガリータ』などの作品で知られながら、ソビエト内で長らく不遇であった
   作家ブルガーコフ。本書は彼の戯曲2作を収めた作品集。1作目「アダムとイヴ」は、
   絶滅兵器による東西戦争が勃発した後の世界を描く。中盤の狂気じみた党員の態度も
   そうだが、ラストのとってつけたような労働者勝利によるハッピーエンドが、却って
   当時の共産圏の不気味さを物語って興味深い。2作目の「至福郷」は「時間飛翔機」を
   発明した天才技師が訪れた23世紀の世界を描くが、ユートピアであるはずの世界から
   脱出を望むヒロインの存在が何だか皮肉。
『食物漫遊記』 種村季弘 ちくま文庫
  *独文学者・種村氏による、食べ物をテーマにしたエッセイ集。『渋澤さん家で...』
   の余勢をかって、さほど期待せずに(失礼!)読み始めたところ、とんでもなく面白か
   った。食通が単に「美味かった」などとほざく文章は著者自身が嫌いだそうで、当然
   本書も普通の食エッセイの枠に納まるはずがない。古今東西の書物の引用やら、実話な
   のか著者の妄想なのかわからないような虚々実々の文章が目白押し。テーマも「美味い
   もの」ばかりでなく、「泥鰌(どじょう)地獄」という幻料理の追跡譚や、断食/絶食
   といったものまで取り上げられる。テーマの選び方は嵐山光三郎に似ているかも。
『私の好きな世界の街』 兼高かおる 新潮文庫
  *子供の頃は毎週のようにテレビで「兼高かおる世界の旅」を観ていた。本書は世界150
   ヵ国あまりを回ってギネスブックにも載ったことがある著者が、今まで訪問した中でと
   りわけ印象に残った街について書いたエッセイ集。ニューヨークやロンドンといった
   有名どころから、マラケシュ(モロッコ)やカシュガル(中国・ウイグル)、バーゼル
   (スイス)にサマルカンド(ウズベキスタン)といった、殆ど知らないところまで20の
   都市が取り上げられている。等身大の感想なので好感が持てるが、いかにもお金持ちの
   兼高氏らしいリッチな旅行なので、自分には同じ体験はちょっと無理。(笑)
『ニックとグリマング』 フィリップ・K・ディック 筑摩書房
  *夭折したカルトSF作家が残した唯一のジュブナイル。子供向けと聞いてずっと読まず
   にいたのだが、これは傑作だった。(ただし子供に読ませたらトラウマになりそうだけ
   ど。/笑)他の作品でもお馴染みの摩訶不思議な生き物たちや、何とも言えない焦燥感
   と不安感など、ディックワールドのエッセンスが短い物語の中に凝縮していて、まるで
   吾妻ひでおのマンガを読んでいるかのよう。
『フローラ逍遥』 澁澤龍彦 平凡社ライブラリー
  *筆者の生前に発行された最後の著作。水仙や椿や梅、朝顔や向日葵といったごく日常的
   にみられる花々についてのエッセイ。古今東西の書物からの引用と著者の子供時代の
   思い出などが混然となって、美しい博物図像とともにとても好い感じを醸し出す。
   著者の『私のプリニウス』と『狐のだんぶくろ』が一緒になったような面白さ。
『夢十夜を十夜で』 高山宏 はとり文庫
  *博覧強記の人文学者である著者が、明治大学・国際日本学部の学生を相手に夏目漱石
   『夢十夜』を徹底読解させたセミナーの講義録。『夢十夜』を読んだ経験すらなかった
   学生たちが、回を重ねるにつれ成長した読み手になっていく様子が愉しい。しかし自分
   としてさらに嬉しかったのは、高山氏によって次々と繰り出される漱石の新たな切り口
   が、とても刺激的で素晴らしかった点。全体としては明治期における間違った西洋化を
   つきすすむ日本への、漱石の不安と焦燥という視点で読み説くのが本書のテーマ。
   しかし他にもマニエリスムの観点で漱石を語ってみたり、「怪談の構造」を描いたメタ
   怪談として第3夜を捉えるなど、読みどころは満載。年の最後によい本を読むことが
   出来てよかった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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