『時間はだれも待ってくれない』 高野史緒/編 東京創元社

※今回もマニアックな趣味の本です。

 サブタイトルに「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」とあるように、現代における“東欧”諸国のSFおよび幻想系の作品を集めた作品集。編者は作家の高野史緒氏。先行した企画として1980年に本書と同じ東京創元社から出された『東欧SF傑作集(上下)』(深見弾/編)があるが、例えばバルト3国からの訳出など様々な事情で当時は出来なかった取り組みが実現していて、アンソロジーとして大変に優れたものになっている。ちなみに収録作品の国または地域は次のとおり。――オーストリア/ルーマニア/ベラルーシ/チェコ/スロヴァキア/ポーランド/旧東ドイツ/ハンガリー/ラトヴィア/セルビア。

 沼野充義氏の解説にも書かれているように、かつては“東欧”という言葉は西欧諸国とソ連との間に挟まれた「衛星国」という意味合いが強かった。しかし社会主義体制が崩壊した今では、その定義自体も曖昧なものになってきている。大雑把に言えば、地理的にはヨーロッパ地域の中央に位置し、ロシアのような本当の“東”よりむしろ「中欧」と呼ぶにふさわしい。西とも東とも違う独自の文化圏を形成しており、昔から独特の魅力をもった小説を輩出してきたエリアといえるだろう。(日本近隣でいえば、東南アジア諸国に感じられる一種独特な共通性などと同じか。)またチェルノブイリ原発事故や内戦など、激動の時代を経て多くの辛酸をなめてきた地域でもあるため、作家たちの社会的問題に関する意識は極めて高い。
 詳しいことは編者による序文およびあとがきや先述の解説に語り尽くされており、これ以上の屋上屋を重ねるような文を書いても仕方ないのでやめておくが、まさに今の日本でこそ読まれるべき作品集といえるのではないだろうか。満を持して編まれたアンソロジーだけあって収録作はどれも粒より。本書を「テーマアンソロジー」ではなく普通の作品集として見ても、極めてもレベルが高い出来と思う。
 スタニスワフ・レムの作品を想像してもらえば分かると思うが、東欧ではSFとファンタジーまたは幻想小説の垣根がはっきりしていない。そのため本書に「エンタテイメントとしてのSF」や「狭義のSF」を求める向きには不満もあろうかと思う。(値段も結構するし。)でも少なくとも自分は読んで良かったと思える作品集だった。 この企画を実現してくれた高野史緒氏と東京創元社には心からお礼を申し上げたい。

<追記>
 収録作はどれも優れており優劣つけがたいのだが、あえて個人的な好みも踏まえて選ぶとすれば、モンマース「ヘーバムス・パーパム(新教皇万歳)」/フランツ「私と犬」/ストゥドニャレク「時間はだれも待ってくれない」/シュタインミュラー「労働者階級の手にあるインターネット」あたりかな。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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