『フジモリ式建築入門』 藤森照信 ちくまプリマー新書

 『建築探偵シリーズ』や『明治の東京計画』などで有名な藤森照信氏の新刊。ちくまの「プリマー」といえば高校生向けの「ちくまプリマーブックス」を連想してしまうが、2005年にリニューアルして大人でも気楽に読める“知的入門書”というコンセプトで仕切り直したそうな。中身が原稿用紙150枚とお手軽なので、活字好きにはちと物足りない感が無きにしもあらず。しかしその分字も大きいので、最近近くのものが見にくくなってきた身としては有難かったり。(笑)
氏の元々の専門は「看板建築」など建築史なので、本書もてっきり建築様式についての本かと思いきや、読んでみたら全然違っていた。「(建築)様式」ではなく「(建築)そのもの」について語ったもので、19世紀末(=いわゆる前近代の手前)までの建築物の歴史をたどり、建築という概念について考察している。(*)

   *…自分で勝手に誤解していて言うのもなんだが、思うに日本における「建築家」と
     いう言葉の濫用が良くないな。英語ではアーキテクトとビルディングで区別が
     あるようだが、今の日本ではそのあたりが混在しているように思える。
     昔は「普請」という言い方で区別出来ていたような気もするが、今では使われて
     いないしなあ。
     「建築家」という言葉を個人の住居を設計する人にまで用いてしまっているから、
     てっきり本書もそちら系の「建築探偵(理論版)」みたいなものと勘違いして
     買ってしまったというわけ。
     

 本書で面白かったのは、建築というものが“神(神殿)”もしくは“人間(住居)”のどちらかの為のものだというくだり。今までそんな風に建築を考えたことなかった。しかしこのあたりの理屈を説明する為に、わざわざ“人類の曙”の時代まで遡って解き明かしていく破天荒さが、いわゆるフジモリ式というものか。

 それではここからはざっくりと中身を紹介。
 著者は建築物を「内部空間」と「概観」に分けて考え、前者「内部空間」のルーツはラスコーやアルタミラに見られるような洞窟壁画による「異空間」であるとし、同様に後者「概観」のルーツを(地母神信仰から発展した)太陽神信仰の象徴である屹立する柱に求めている。(諏訪の御柱祭のようなものかな?)
 また建築材料についての考察もなされている。ギリシアのように人が住まない神殿であれば、断熱性のない石で造られていても問題ないが、実際に人が寝起きする「住居」としての建築には木材は不可欠。しかし木材の加工は思ったより大変だそうで、まるで獣の巣のような外観が住居らしい体裁に変わったのは、新石器時代の摩耗石器による技術革命によるものらしい。(なにしろご本人が木材の伐採から加工までの工程で、打製石器と摩耗石器をそれぞれ実際に試してみたのだから間違いだろう。)
 先ほども書いたように、西洋ではギリシアの時代から「アーキテクチャー(神殿のように記念碑的な“建築物”)」と「ビルディング(住居など実用的な“建物”)」を区別していたが、日本でその区別が意識されるようになったのはようやく明治になってから。(最初の日本人建築家である伊藤忠太による命名なのだとか。)逆にいえば、日本では建物に人の意識がいくことはあまりなかったといえるのかな?それまで「建築家」なんて職業はなく、大工の棟梁(職人)の世界だったわけだし。
 ついでにいうと絵や彫刻や建築や自然景観など、あらゆるものに共通する普遍的な「美」という概念も、明治期に伝わってきたものだそう。東大の建築家教授として招聘されたジョサイア・コンドルに「建築の本質は実用ではなく美である」なんて言われても、生徒であった辰野金吾たちはさぞや戸惑ったことだろう。(笑)

 ちなみに住居としての建築すなわち“民家”が建築論の対象として論じられるようになったのは、19世紀も半ばを過ぎてから。(日本ではさらに20世紀まで下って、今和次郎により論じられたのが最初。)従って「建築史」と呼ばれるものは、その殆どが神殿や公共の建築物のみを対象とするのだという。本書でも神殿や公共建築の話がずっと続いて「もしかしてこれで終わるのかな?」と心配になったが、そこらへんは抜かりなく(笑)、キチンと別章を立てて論じてくれていた。(**)

  **…世界中に数えきれない種類があるので、本書では日本だけを例にとりあげている。
     大きくは竪穴式⇒高床式⇒茅葺き屋根、それに寝殿造⇒書院造/茶室⇒数寄屋造
     という流れのよう。

 明治期以降について語りだすと大変なボリュームになり、入門の範疇を超えてしまうため、本書はとりあえずここまでで終了。最初は内容を勘違いして読み始めたのだが、読んでみると大掴みで全体像を理解できるお手軽な建築入門としてなかなか好かった。気楽によめる”知的入門書”としてはぴったりといえる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR