『宇宙のダークエネルギー』 土居守/松原隆彦 光文社新書

 現代天文学の最大の関心事のひとつである「ダークエネルギー」について(*)、それが注目を集めている理由や現状の研究成果などを分かりやすくまとめたもの。最近はなぜかこの手の科学本がブームのようで、一昔前ならたまにブルーバックスから出るのを待つしかなかったテーマが、普通の新書でどしどし出るようになったので嬉しい。(もちろんその分だけ小遣いは減るわけだが。/笑)
 本書を愉しむには少しばかり現代天文学についての基礎知識が必要。本書の中身について触れる前に、まずそのあたりについてまとめてみよう。

   *…2011年のノーベル物理学賞は、ダークエネルギー(による加速膨張)を発見した
     2人の研究者が受賞した。

 まず宇宙を構成する要素について。大きく分けるとそれは3つあり、ひとつめは「バリオン」とよばれるグループ。これはいわゆる通常の「物質」のことで、原子を構成する陽子や中性子や電子はもちろん、その元になるクォークやニュートリノまで全てが含まれる。なおこれらの粒子が「物質に関係がある」ということは、つまり「重力に関係(相互作用)がある」ということでもある。
 宇宙望遠鏡にもその名を残す天文学者ハッブルが、宇宙が現在でも膨張し続けている証拠となる「赤方偏移」を発見したのは、今からおよそ80年ほど前のこと。それはすなわち宇宙に「始まり(=ビッグバン)」があるという事の発見でもあった。始まりがあるということは終わりがあるということでもある。その時から天文学者たちの関心事は、はたして宇宙は広がり続けて拡散してしまうのか、それとも徐々に勢いが弱くなりどこかで逆に収縮を始め、いつかは「元のひと固まり」に戻ってしまう(=ビッグクランチ)のか?という点に向けられることになった。
 それを解くカギは、この宇宙に存在する物質の量がどれ程あるかにかかっている。もしも物質(≒質量)が充分に多ければ、重力の影響で互いに引きつけ合うため膨張は止まり収縮に転ずるし、少ないとそのまま広がり続けることになる。
 そこで遠くの銀河団の観測や“重力レンズ”による遠くの天体の観測を通じて、宇宙の総質量を推定する試みがなされたが、その結果得られたデータは実に驚くべきもの。宇宙には観測できるあらゆる物質以外に、光や電磁波による観測では一切捉えることが出来ない莫大な量の「質量」が存在するという結論だった。観測することは出来ないのに重力によって宇宙の成り立ちに影響を与える謎の存在。それを天文学者は「ダークマター」と名付けたというわけ。(以上が前段の話。続いていよいよ本書のテーマである「ダークエネルギー」に移る。)

 宇宙が膨張するスピード(加速度)の測定精度は、近年になり観測技術の進歩に伴って飛躍的に向上した。そしてその結果、宇宙の膨張加速度は過去から徐々に小さくなるどころか、逆に大きくなっていることが分かってきた。これはつまり「宇宙の終わりは収縮ではなく拡散」というシナリオが確定したということでもある。
 重力は引き合う方向にしか働かないので、本来であれば加速度は徐々に減少していかなくてはならないはず。もしも観測結果が正しいとすれば、「バリオン」と「ダークマター」による引力の影響を打ち消して加速を続けるだけの「斥力」がなければおかしい。そこで彼らはその斥力の源を仮に「ダークエネルギー」と名付けたというわけだ。(**)

  **…ちなみにこの「ダークエネルギー」と言う名前は1999年ごろから使われ出した。
     それまでは一般相対性理論のアインシュタイン方程式において「宇宙項」と呼ばれ
     ていたものに等しい。(といえば科学好きの人にはピンとくるかな?)

 本書を愉しむ上での前置きのつもりが、予想外に長くなってしまった。それではここからは本書の内容について。
 本書は2部構成になっていて、第1部は本書の論点を理解する為の予備的な物理学の知識と、ダークエネルギーを巡る理論的側面について説明を、そして続く第2部ではダークエネルギー理論を構築・検証する土台となる、観測方法の紹介や今後の見通しについて述べられている。
 現在判明しているデータによれば、先ほどのバリオン/ダークマター/ダークエネルギーが宇宙全体のエネルギー成分に占める割合は、バリオン=4%、ダークマター=23%に対してダークエネルギーは何と73%にも上るとのこと。しかも現在の観測結果をきちんと説明しようとすれば、このエネルギーは ――あらゆる宇宙空間にあまねく存在する上、体積当たりのエネルギーは常に一定である―― という極めて奇妙な性質を持たなくてはいけない。もしもこれが本当だとすれば、今までの物理体系は根底から覆る可能性すらある。こんな常識外れの性質を持つ存在に対して、シカゴ大のマイケル・ターナーという研究者がつけた仮の名前が広まったのが今の状況というわけ。(***)

 ***…例えばこんな喩え話はどうだろうか。あるとき羊飼いが羊を放牧していると、
     見たこともない恐ろしい生き物が羊を襲ったとする。最初はただ恐ろしいだけの
     存在だったが、やがて「大きな牙」「するどいツメ」「立派なたてがみ」もった
     その生き物に“ライオン”という名前がつけられると、それは謎ではなく単なる
     一匹の猛獣として認知されることとなる。しかし名前がついたからといって、
     “ライオン”がどのような生き物なのか生態が分かっている訳でもないし、
     ましてや「なぜライオンという生き物が存在するのか?」という疑問が解ける訳
     でもない。
 
 現在“ダークエネルギー”という名前で呼ばれているものは、ある種の猛獣に付けられた“ライオン”という名前に相当するようなものだと思えばいい。観測精度が向上した結果“不可解”な事象が発見された。そしてそれを説明するためには、従来の物理学の常識から大きくかけ離れた存在が想定されなければならない。それを仮に「ダークエネルギー」と呼んでいるだけであって、どんなものなのか皆目見当がついていないのが今の状況なのだ。

 本書の著者2人は、ダークエネルギーを説明するための“理論”と、そのための論拠を提供する“観測”を行っているそれぞれ第一線の研究者たち。彼らは一般向けの本にはあまり縁がなかったようで、初歩的な内容と少し専門的過ぎる内容が入り混じるなどバランスに若干の難はあるが、普通の理科好きなら充分に愉しめると思う。なにしろわざわざ高い専門書を買わずとも、手ごろな値段で天文学の最前線を味わえるのは有難い。願わくばまだしばらく科学書のブームが続いて、この手の本が沢山出版されますように。(笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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