『時間の種』 ジョン・ウインダム 創元SF文庫

 作者は『トリフィドの日(トリフィド時代)』や『さなぎ』『海竜めざめる』などの作品で知られるイギリスSF界の重鎮。本書は40、50年代の作品から作者自身が気に入っているものを選んだ自選短篇集で、長らく品切れになっていたがこのたびの復刊フェアでめでたく再リリースされた。
 読んでみるとさすがに古さは否めないわけだが、異論が出るのは承知の上でそれでも敢えて言わせていただこう。本書やシェクリイの『人間の手がまだ触れない』、シマック『愚者の聖戦』といった往年の作品群について、今の目で面白いとか面白くないとか論じるのは「野暮」だ。(我ながら何て挑発的な。/笑)
 ちなみに言えば“野暮”というのは“粋(いき)”でないこと。九鬼周三の『粋の構造』によれば、粋というのは「意気地」「媚態」「諦め」の3つの契機(≒要素)からなるものだとか。もう少し簡単な表現にすれば、それぞれ「反骨精神」「色気」「いさぎよさ」という感じだろうか。

 ではそれを踏まえて、先ほどの往年の作品群を愛でることの“粋”とはどこにあるか。まずひとつめは「反骨精神」。「自然科学をベースにした奇想」ともいえるSF小説において、時代遅れの知見というのは普通は致命的だ。そのような知見に基づいた作品にあたると、大抵の場合は興醒めして作品自体も愉しめなくなる。どうせなら上手く騙して欲しいのに…というわけだ。
 「古臭」くなるのは科学的な知見ばかりではない。社会や性に対する意識など、登場人物たちがもつ価値観についても、今から見てあまりに前時代的だったりするとネックになる。いやむしろこちらの方が科学的な誤謬より影響は大きいかな。
 しかし自分はたとえ時代遅れの知見であっても、いや時代遅れであればなおのこと積極的に「この作品の中ではそれが正しいんだ」と認めてやって、可能な限り作品の中に浸るようにしている。(永井荷風の『墨東綺譚』の心境とまで言ってしまうと格好付け過ぎか。/笑)
 ふたつめの「色気」について。これは九鬼周三が言うように異性に対するものではなくて、当時の人々が夢想した未来に対して自分が感じる、“憧れ”のようなものとしてご理解いただきたい。大阪万博が醸し出していたものといえば、(ある年代より上の方には特に)分かってもらえるかな。磯達雄氏らのことばを借りて「僕らが夢見た未来都市」とでも言おうか、それとも『鉄腕アトム』が体現していたものとでも言うべきか。物語の背後に透けて見えてくるような、それらのものへの嗜好がこれらの本に感じる「色気」の正体。
 最後は「いさぎよさ」について。先述の大阪万博で描かれたような「未来」が、当時いかに夢に満ちて魅力的だったとしても、いま我々が住む世界では実現することはない――それを自覚するということ。(今までも、そしてこれからも決して訪れることはないのだ。)
 そして我々は争いや貧困や環境などの問題を抱えながら、かつて一度も「地図」が描かれたことのない領域を、自分たち自身の足で歩いていかなくてはならないのだということ…。それらを受け入れる一種の潔さこそが、この手の本を愉しむ際の隠し味となる。すなわちこれらの作品に書かれる世界は「すでに過ぎ去った未来(**)」なのだ。

  **…ウィリアム・ギブスンの短篇「ガーンズバック連続体」が、そのあたりを上手く
     描いていて秀逸。

 この時代の作品は自分にとって、(あんまりしょっちゅう読みたいわけではないけれど、)ちょっと精神的にくたびれたときなどに無性に読み返したくなるタイプの本だと言えるのかもしれない。

 以上、やっぱりちょっと格好つけ過ぎ?(笑)
 なお、他の方がある本に対してなされた評価を否定するつもりなぞさらさらない。読む人によって当然いろんな読み方があってしかるべきと思っているから。ただ自分は前にも書いたように「本を愉しめなかったら負け」というつもりで読んでいるので、古い本に関してもこんな風に考えている――というくらいにみて頂ければ幸い。

<追記>
 良く考えたら中身について全然ふれてなかったのでちょっと補足を。本書には10の短篇が収録されている。その中でも好みだったのは、いかにも往年のSFらしい雰囲気の「宇宙からの来訪者」、著者お得意の“滅びの美学”が味わえる「地球喪失ののち」。それにシェクリイを思わせるユーモア作品「ポーリーののぞき穴」と、ラストの抒情漂う小品「野の花」といったところ。音楽に喩えるなら、自分の中ではイギリスの10ccというバンドのもつ雰囲気に近いかなあ。(もしかしてこれが英国スタイルというやつ?)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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