『自閉っ子、こういう風にできてます!』ニキ・リンコ/藤家寛子 花風社

 ともにアスペルガー症候群(*)である翻訳家・ニキ氏と作家・藤家氏の女性2人が、自らの身体感覚と世界観について語った対談集。進行役は編集者で花風社社長でもある浅見淳子氏。
 この本、この手の本の中では何より本人たち自身の声というのが気にいった。(自分は「異文化との出会い」という半ば“興味本位”もあって読んだのだが不謹慎だろうか? 本書の中で彼女ら自信がそういっているわけだし、そんなことはないよね。)
 内容も今まで知らなかった話が沢山。読み始めるなりさっそく「自閉症は社会的コミュニケーションの障碍である前に、身体的・感覚的な障碍である」という指摘に思わず納得。「のぞき穴から世界を見るような」という表現もされていたが、生まれつき周囲の人と感覚が違えば思考のベースが違ってくるのは、なるほど言われてみれば当たり前のことだ。具体的には体温調節がうまくできず汗をかかないとか、身体感覚の統合が失われがちで自分の足や背中の所在が分からなくなるなど、想像すらしなかったような驚きの連続だった。
 一例をあげると、入力情報が過負荷になると自分の身体感覚が統合できなくなって、まったく動けなくなったりするとのこと。ちなみにその場合は眼で確認しながら徐々に意識をつなげて制御を出来るようにするらしいのだが、「視覚に入らない」ということがすなわち「存在しない」に等しいという感覚は、どう考えても想像すらできない。両氏いわく「オートマティックでなく全てがマニュアル運転の身体」だそうだが、たぶん自分には一生理解できない感覚なのだろうなあ。

   *…自閉スペクトラムの一種。知能指数の低下を伴なわない自閉症であるため一見
     「定型発達(=いわゆる一般の人)」との区別が付き難く、かえって就労や社会
     サポートの面で、不足あるいは差別につながることも。なおこれらの状態を
     「発達の障碍」ではなく「得意・不得意の偏り」と見做すべきという考えから、
     健常者のことは「正常」と呼ぶのでなく「定型発達」と呼ぶのが通例らしい。

 それではなぜ身体的・感覚的な障碍がコミュニケーションの障碍になるのだろうか。本人らの説明によれば、「隠された前提条件」や「暗黙の了解」のベースになっている身体感覚がないことが原因とのこと。身体感覚が共有できていないとベースになる知識が異なるため、いちいち言葉で説明されないと想像力で補うことが出来ないのだ。また周囲のあらゆる音を平板に拾ってしまうという障碍を持っている人も多いらしい。そのような人は定型発達のように「カクテルパーティー効果(**)」がうまく働かないため、どうしても大事な情報が欠落しやすいということもあるようだ。(もちろん症状については個人差がある。)
 従って自閉スペクトラムの人に対しては、「こんなことぐらい言わなくても分かるだろう」という考えは一切通用しない。曖昧な提示やほのめかしは理解できないもしくは意味の取り違えの原因となるため、何かをお願いする場合は全てを明確な言葉にして示す必要がある。
 例えばこんな調子。
 「いっしょにご飯を食べに行こう」というのは「白飯だけでなくおかずも一緒に食べても良いこと」であって、それどころか「白飯を全く食べずにおかずだけ」でも構わない。おしゃべりもせず黙々とただひたすら食事をするのではなく、お酒を飲んだり会話を楽しみながら「親睦を深める」のが目的。「あなたともっと仲良くしたい」と言われているのと同じなのだよ。―― と、ここまで説明してあげないとアスペルガーの人は戸惑ってしまうのだそうだ。

  **…周囲の雑音の中から自分に関係する情報だけを識別できる能力。パーティーの騒音
     の中でも隣の人と会話が続けられることの比喩。

 言葉をあるがままに素直に受け取り、一度決められたことは律儀に守る。本書を読んでいると彼女らの方が、自分のような「定型発達」の人間よりも、よほど素晴らしい人に思えてくる。今の状態は「病気」ではなくあくまでも「障碍」なわけだから、「正しい状態に“治す(戻す)”」のではなく、「その人のことをあるがままに理解して生きやすいようにしてあげる」という気持ちで接することが求められるという事なのだろう。
 最後に少し蛇足を。本書で最も好いのはどの会話も終始ユーモアに包まれていて、悲壮感が全く見受けられないこと。今までかなりつらい人生をおくってきているはずなのに、本人たちは思い出話をする時もあっけらかんとしてとても明るい。(何せ「もう一度うまれても、自閉っ子に生まれたい」とまで言っているくらい。)本書が今すぐ自分の生活で何かの役に立つとかいうわけではないけれど、何だかとても大事なことを知ることができたような、そんな気がする。

<追記>
 もしかしたらブックオフの最大のメリットは、単にセールで安く本を手に入れられることではなく、本書のように普段の自分の趣味とは全く違う世界に気軽に触れられる点なのかも知れないな。また本書を読んでみて、自分が文化人類学系の本を好きな理由と、本書のように自分が知らないジャンルの本をときおり衝動的に読んでみたくなる理由は、根っこの部分で案外つながっているのではないかという気もしてきた。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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