『理性の限界』 高橋昌一郎 講談社現代新書

 世の中には白黒決着がつけられない問題が数多く存在する。いや、教科書とは違い現実の世界ではむしろそんな問題ばかりともいえる。克服する方法を未だ考え付けていない問題も勿論あるが、解決が不可能なことが原理的に証明されている問題もある。それら「解決不能な問題」を(人間の)「理性の限界」と名付けて紹介したのが本書。ちょっと前に話題になった本だが、自分にとって講談社現代新書はハズレが多いシリーズなので、とりあえず敬遠していた。ところが今回ふとしたきっかけで本書に目を通してみたところ、なかなか悪くなかった。これならもっと早くに読んでおいても良かったかな。尤も個人的には全体の9割ほどが既知の話題だったので、新しいことを初めて知る時のワクワクドキドキ感に欠けるきらいがあったのはちと残念。
 なお話題が広い範囲に及ぶため、思想系の本に馴染みのない人はそのつもりで。出てくる単語の意味も知らぬままにいきなり目を通すと、見慣れぬ用語の羅列にちょっと面喰うかもしれない。
 言ってみれば本書は気軽に読める「“知識の限界”見本市」のような本なのだから、個々の問題に興味が湧いた人は、本書を足がかりにして詳しい解説書に進むのがいいと思う。
 ちなみに取り上げられている分野は3つ。社会学的な「①選択の限界」と自然科学に関する「②科学の限界」、それに論理学や数学などの形式科学に関する「③知識の限界」。先ほど触れた「専門用語」の例を以下に示しておくので、面白そうと思う方はどうぞ。

 ■選択の限界
  中心になる話題は「アロウの不可能性定理」。それを補足する為の話題として「投票の
  パラドックス(*)」や「囚人のジレンマ&しっぺがえし戦略」、それに「ゲーム理論
  &ミニマックス戦略」などが取り上げられる。
 ■科学の限界
  中心の話題は「ハイゼンベルクの不確定性原理」。他に「EPRパラドックス」や「パラ
  ダイム論」「量子力学」「多世界解釈」「シュレーディンガーの猫」「方法論的虚無主義」
  など。
 ■知識の限界
  中心の話題は「ゲーデルの不完全性定理」。他には「ぬきうちテストのパラドックス
  (**)」など。

   *…個人が合理的に行った選択と、社会(集団)の合理的な選択が合致しない場合の
     ジレンマ。アロウの不可能性定理によって、選挙において投票者全員が納得のいく
     結果というのは原理的に在り得ない事が数学的に証明されているのだとか。

  **…論理学でいうところの「自己言及のパラドックス」というやつ。AがBの言う事を
     信じると言った事が「偽」になり、信じないと「真」になるように仕組まれた命題
     のこと。(“嘘つき村”の住民が「私は嘘つきです」という類の話。)

 なお最後の「知識の限界」だけはやたらと議論が細かいので、ついていくのがちょっと大変。何故だろうと思ったら、あとがきで筆者はもともと論理学の専門家だったというオチがついた。(笑)

<追記>
 本書には『知性の限界』という続篇も出されている。そのうち気が向いたら読んでみたい。
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