『日本の大転換』 中沢新一 集英社新書

 3.11を踏まえて緊急出版された提言書。4月に内田樹/平沢克美と行ったネット対談(*)でざっと紹介されていた内容について詳しく述べた本。雑誌「すばる」に6月から8月にかけて分載されたときに本屋で一応目は通していたのだが、今回じっくり腰を落ち着けて読んでみると、けっこう見落としていたところも多かった。

   *…その後、朝日新聞出版から対談集『大津波と原発』として発売。

 著者は経済論や単なるイデオロギーではない「エネルゴロジー(**)」の視点から原子力を読み解こうとしている。その狙いは「第7次エネルギー革命」である原子力を否定的に乗り越えて、次なるビジョンを指し示すこと。本来“生態圏外のエネルギー”である核反応は地球の生態圏が処理できるものではないため、地上に直接持ち込むのではなく、媒介を経て利用できるようにすべき―というのがその大まかな主旨。(著者はそれを「第8次エネルギー革命」と呼んでいる。)

 **…もとはフランスの文明学者アンドレ・ヴァラニャックが提唱したもので、
    「エネルギー存在論」とでもいうべき概念。

 しかし「第8次エネルギー革命」といってもそんなに大層なものでは無い。簡単に言ってしまえば、核反応の熱を地球上で直接利用するのでなく、数十億年前から地球上に降り注いであまたの生物が利用してきた(遥か彼方の核反応である)「太陽エネルギー」をもっと活用しようということ。
 「そんなの当たり前の話じゃないか」「そこらのエコ活動家と同じ話だろう」と言う声が聞こえてきそうだが、ちょっと待って欲しい。僅か70年に満たないほどの経験しかもたない核エネルギーの制御技術と、それが万が一制御不能になった場合に引き起こされるダメージの大きさ。今回の事故を考えた時、無理に原子力発電に拘る必要はなく、むしろ数十億年前から様々な方法で生態圏が用いてきたエネルギー活用のノウハウを使わない手は無いという著者の論旨は、実際に読めばかなりの説得力がある。
 思うに原子力エネルギーというのは、エアコンやテレビの電源に使う為のものでは無く、地球外・太陽系外に出ていく時のような宇宙的規模の技術なのかもしれない。大勢の人の生活が営まれるすぐ横で、「電気をおこすためだけ」に核反応を日常的に発生させている状況というのは、まるで卵を割るためにパワーショベルを使うようなものかも。生態系の中で無媒介に利用するには、まだあまりにも不完全な技術だという著者の主張には首肯できるところも多い。

 いかにも宗教学者らしいのは、このように「対応を誤れば即破滅に通じるような絶対的な力」との付き合いというのがユダヤ教やキリスト教、それにイスラム教などの“一神教”の思考原理そのものだというくだり。原子力というものは、そもそもが日本人には思想的に取扱が無理な代物ではないのか?という主張はまさに彼らしいロジックで、宗教学者の面目躍如といったところ。(更に言えば「第8次エネルギー革命」とは、一神教的な思考から仏教的/曼荼羅的な思考への転回なんだとか。)
 今日では光/風/波といった、太陽エネルギーに起因する「自然エネルギー」を活用する技術として、さまざまな発電方式が実用化されている。その中で著者が最も期待を寄せるのは「人工光合成」とも称される光合成利用技術だ。この案を「素人の思いつきに過ぎない」とか、「エネルギー変換効率の低さやコスト・経済効果の悪さを考えると非現実的」とか、性急に結論付けるのは早すぎる。哲学・思想の役割が万人が納得できる思考の原理原則を指し示す事だとすれば、技術開発に携わる人間の努めとは、それを実現する手段を考えていく事なのではないだろうか。たとえそれが何十年かかるものであろうと。(ちなみにこれは自戒を込めてのことでもある。)

<追記>
 中沢新一は好き嫌いの分かれる著述家だと思う。本書でも相変わらず独特のレトリックが用いられているため、馴染みのない読者には取っつき難かったり誤解を招く恐れは充分にある。「贈与」とか「資本主義の持つ自律的・閉鎖的な危険」など、人類学や構造主義的な知識がないと分からない話も突然出てくるし…。
 でも語り口や修辞的な枝葉末節に囚われるのでなく、きちんと本質の部分を読み込めば、傾聴に値する重要な指摘を数多く含んでいると思うよ。
 今回は久しぶりに時事問題について考えてしまった。(珍しく真面目。/笑)
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