2011年8月の読了本

『第二の性Ⅰ・Ⅱ』 ボーヴォワール 新潮文庫
  *サルトルのパートナー(事実婚)であった著者による、ジェンダー論やフェミニズム論の
   先駆けとなった女性論。全5巻のうちの第1・2巻。
『不安定からの発想』 佐貫亦男 講談社学術文庫
  *航空学を専門とする著者により「敢えて不安定を制御する」という視点で書かれた飛行機
   の開発史。技術論&文明論にもなっている。
『本棚探偵の生還』 喜国雅彦 双葉社
  *ギャグ漫画を得意とする著者が趣味とする、ミステリ&古本についてのエッセイ。
   『冒険』『回想』につづく第3弾で、何と7年ぶりの新作だが待った甲斐はあった。
   著者のもうひとつの趣味であるマラソンをしながら古本屋を巡る「マラ本」など、
   バカバカしくも(注:これ褒め言葉)サービス精神旺盛な内容が素晴らしい。価格が
   2,800円と高いのが玉にキズだが、凝りに凝った装丁だから致し方ないか。
『沈黙の中世』 網野善彦/石井進/福田豊彦 平凡社ライブラリー
  *今までは「文献」すなわち“能弁に歴史を語るもの”の研究を通じてしか分からなかった
   中世日本について、「沈黙するもの」すなわち“遺跡や埋設物”を通じ新たな光を当てる。
   その結果明らかになってきたのは、今まで語られることがなかった(「沈黙」してきた)
   蝦夷や東北などの地域の真の姿だった。気鋭の研究者3名による刺激的な対談集。
『戦争する脳』 計見一雄 平凡社新書
  *著者は臨床精神医学者なので、てっきり「人が暴力をふるう原因となる脳のメカニズム」
   みたいな本かと思って読み始めたら、全然違っていた。中身は(2007年当時の時事問題
   であった)イラク戦争や太平洋戦争など、古今の戦争と軍部のキーマンの意思決定に
   関するエッセイ。でも相変わらずの著者らしい豪放な書きっぷりがとても面白い。
   内容も示唆にとんでいる。例えば「リスク・マネージメント」というのはリスクの総量が
   把握できているのが前提であり、むしろ実戦では予測できないダメージを最小限に減らす
   「ダメージ・コントロール」を考えるべきとか。他にも「あってはならない」という考え
   がいちばん危険で、現実のリスクの存在を否認もしくは無視する思考が被害を大きくする
   のだとか。なんだか原発事故を巡る現在の状況にもそのまま当て嵌まるような感じが。
『結晶銀河』 大森望/日下三蔵・編 創元SF文庫
  *2010年度年間SF傑作選。この年から同じ編者(大森)によるオリジナルアンソロジー
   『NOVA』の刊行が始まったため、(当然のことながら)そこからの再録が幾つかある
   のが残念。たしかに面白いんだけどちょっと損した気がして。(ケチ過ぎるかな?/笑)
   再録作を除いて気に入ったものを挙げると、小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
   (“計算”を武器に世界を制圧した帝国の寓話)、瀬名秀明「光の栞」(生命を持つ本)
   酉島伝法「皆勤の徒」(オールディス『地球の長い午後』や椎名誠『水域』を思わせる
   ”異界もの”)などが好かった。
『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』 石井好子 河出文庫
  *音楽家にしてエッセイストの著者により雑誌『暮しの手帖』に掲載された食べ物エッセイ
   の嚆矢。『巴里の空の下セーヌは流れる』をもじった前作に続き、今度は舞台を東京に
   移しての2作目。これまた上手い。
『神話学講義』 松村一男 角川選書
  *マックス・ミュラーからジョーゼフ・キャンベルまで6人の神話研究家を俎上にのせて、
   19世紀から今日にいたる神話研究の系譜を探る。
『東京マラソンを走りたい』 喜国雅彦 小学館101新書
  *『本棚探偵』の著者によるエッセイ。ただし本エッセイの主題は古本ではなくてマラソン
   なのだが、『本棚探偵』と同じくサービス精神旺盛な文章がとても面白い。マラソンに
   嵌っている人にありそうな「求道者」みたいな変な気負いがなく、日常生活の一部として
   気楽に走っている点に好感が持てる。なお本書に書いてある「モチベーションを維持する
   方法」というのが、自分がウォーキングを続ける上でのノウハウとよく似ていたので大変
   驚いた。同じところばかりじゃ飽きるからコースをかえたり、何らかの目的(例えば本屋
   に行くなど)を作るなど、実体験に基づいたアドバイスには頷けるところが多い。
   『本棚探偵の生還』を読んだ人にはわかる一癖も二癖もある人達「台湾のシンジさん」や
   「ミニコミ誌『野宿野郎』のかとうちゃん」らとの出会いに関するエピソードも書かれて
   いるし、「マラ本」(古本屋めぐりを兼ねたマラソン)を始めたきっかけなど、『生還』
   に関係したエピソードも豊富。『本棚探偵』のファンはサブテキストとしても読めるので
   更にお買い得といえるのでは。
『刑吏の社会史』 阿部謹也 中公新書
  *中世ヨーロッパを専門とする歴史学者による、被差別民であった「刑吏」(けいり/拷問
   や処刑の執行を職業とする人々)に関する研究書。古代ゲルマン社会においては畏怖され
   るべき存在であったにも拘わらず、12.3世紀を境にしてなぜ彼らが差別されるに至った
   のかについて、社会背景などから詳細に追及していく。
『人種と歴史』 C・レヴィ=ストロース みすず書房
  *著者が『親族の基本構造』の後に『悲しき熱帯』を出版したばかりの頃の小論。ユネスコ
   が出版した人種主義問題に関する小冊子のシリーズのために書き下ろされた。
   自然科学であるダーウィンの進化論の論理を文系学問にそのまま導入しようとする事への
   批判や、民族や文化の多様性が如何に重要かといった、いわゆる“20世紀型”の人類学の
   特徴が明晰に主張されている。こんな初期のころからやはり、レヴィ=ストロースという
   人物はレヴィ=ストロース以外の何者でもなかったのだと妙に納得。
『日本の大転換』 中沢新一 集英社新書
  *3月11日・福島の原発事故を受けて、今後の日本が目指すべき方向性について著者が示す
   自分なりの答え。「エネルゴロジー(エネルギー存在論)」の視点から、自然エネルギー
   との共存を提言する。
『ラテンアメリカ五人集』 M・バルガス=リョサ他 集英社文庫
  *収録作家および収録作は次の通り。
   J・E・パーチェコ  「砂漠の戦い」
   M・バルガス=リョサ 「小犬たち」
   シルビーナ・オカンポ 「鏡の前のコルネリア」
   オクタビオ・パス   「白」「青い目の花束」「見知らぬふたりへの手紙」
   M・A・アストゥリアス「グアテマラ伝説集」。
   中でもバルガス=リョサの「小犬たち」とパスの「青い目の花束」「見知らぬふたりへの
   手紙」あたりが好みかな。「小犬たち」は男たちの子供時代から老年に至る付き合いを
   描いた作品で、本書の中でもかなり評価は高い。(最初は中勘助の『銀の匙』のような話
   と思って読んでいたが、もっとやるせない話だった。)
『全身翻訳家』 鴻巣友季子 ちくま文庫
  *『嵐が丘』などの翻訳で知られる翻訳家によるエッセイ。本書の様に面白くて上品な文章
   を読むと、いつも惚れぼれしてしまう。
『殺す』 J・G・バラード 創元SF文庫
  *後期バラードの作品群の出発点となった作品といえるだろうか。イギリスの高級住宅地で
   起こった住民32名の大量殺害事件を巡るミステリ仕立ての中篇。
『かくれた次元』 エドワード・ホール みすず書房
  *人類学者の著者による、人間の空間認識研究に関する古典的名著。生物が他の個体との間
   に設けるさまざまな距離を元に、人間が社会生活を営む上で無意識のうちに行っている
   文化的な空間(距離)認識について考察。
『海月書林の古本案内』 市川慎子 ピエ・ブックス
  *著者は『女子の古本屋』(岡崎武志著・ちくま文庫)で紹介された荻窪にある(注:刊行
   当時)ネットの古書店主。ちなみに店名は「くらげしょりん」と読む。本書は著者が取り
   扱っている本の中から特に気に入っているものをピックアップして、オールカラーの写真
   で書影とともに内容を紹介したブックガイド。さすが女性店主だけあって選ばれているの
   はどれも装幀や意匠が綺麗な本ばかり。ずーっといつまでも眺めていたくなる。著者曰く
   「オンナコドモ」の本なのだとか。自分は基本的に「読む為の本」しか買わない主義なの
   だが、創刊当時の『暮らしの手帖』だとか知る人ぞ知る関西発の(食べ物に関する)
   小雑誌『あまカラ』、それに寿屋(現サントリー)の伝説のPR誌である『洋酒天国』等
   の書影を見ていると、思わず全部自分のものにしたくなる。(笑) 
   発行は2004年と少し古いが、取り上げられているのがなんせ古本だから全く問題なし。
   思うに自分が食べ物や本のエッセイを好きなのは、内容がいつまでも古びないからなの
   かも知れない。
『わたくしだから改』 大槻ケンジ 集英社文庫
  *筋肉少女帯のボーカリスト・大槻ケンジによるエッセイ。頭や体が疲れているときには
   オーケンのユルサが一番だがさすがに本書はゆるすぎた。(笑) 最も精神的に不安定
   だった頃に書かれた文が中心になっていると見えて、収録作の半分くらいがいつも以上
   にグダグダ。(笑)女性の身体の“一部だけ”に焦点をあてて映画評を試みた雑誌連載
   「パイパニック!」まで行くととても付いていけず、とうとうページを飛ばすはめに。
   それでも最初と最後にある表題エッセイの上手さは流石。ラストはいい塩梅で締めてあり
   読後感は爽やかだった。
『火刑法廷[新訳版]』 ジョン・ディクスン・カー ハヤカワ・ミステリ文庫
  *本の編集者が巻き込まれたフィラデルフィアの富豪の毒殺(?)事件。死体の消滅という
   新たな謎もおこって自体は更に複雑怪奇な様相を呈していく…。
   言わずと知れた怪奇本格ミステリの巨匠ディクスン・カーの代表作。つい読む機会を逸し
   ていて、新訳版が出たと聞いてさっそく購入。実を言うとカーは今まで長短編合わせても
   数冊しか読んでいなかったのだが、これは傑作だった。おみそれ致しました。
   雰囲気としてはホジスンの『幽霊狩人カーナッキ』をもっと精緻にした感じかな。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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