アンチ○○

  ※今回はジャンル小説に関するマニアックな小理屈をダラダラ書き連ねるつもりなので、
   興味のない人は読み飛ばしてください。

 世の中には「アンチ○○」とか「反○○」とかいう類の小説がある。たとえばミステリの世界では、“日本四大奇書”とも呼ばれている小栗虫太郎『黒死館殺人事件』/夢野久作『ドグラ・マグラ』/中井英夫『虚無への供物』/竹本健治『匣の中の失楽』なんていうのがそう。
 野球なんかだと「アンチ○○」とか云えば単にそのチームが嫌いという意味だが、小説で「アンチ○○」と云った場合はちょっと意味合いが違う。はっきりした定義を調べた訳ではないけれど、自分としては「既存のジャンルの枠に収まりきらない過剰さを持つことで、結果としてジャンル枠への揺さぶりを掛ける効果がある物語」という感じで捉えたい。
 さきほどの例でいえば、ジャンル小説のミステリとしての面白さである、犯人探しやトリックといった“謎とき”以外に、物語から溢れだす価値(意味)の過剰性をもち、それが(ジャンルを成立させている)暗黙の約束事/枠組み自体を揺るがすほどのパワーをもっているもの。幾らパワーがあろうがジャンルの枠内で整合性がとれているものであれば、ジャンル枠の強化に寄与することはあっても枠の破壊にはならない。したがって自分にとっては、笠井潔の『矢吹駆シリーズ』は「アンチミステリ」の対象からは外れることになる。(U・エーコ『薔薇の名前』は…まだ読んでないから分からない。/笑)
 ただしここで気をつけなければいけない事がある。それはエンタテイメントを目的とするジャンル小説にあっては、意味の過剰はしばしば難解さの原因となり、そのため物語としての面白さを損なってしまうおそれもあるという事。(そうなった時、その小説は“失敗作“の烙印を押されることに。)
 それではアンチミステリとしての成功と単なる失敗作との違いはどこにあるのだろうか。自分としてはそれは「過剰な部分を読み解くことでミステリとは別の面白さが出てくる」という点ではないかと考えている。記号論的な面白さとでもいうか、メタフィクショナルな愉しみとでも言おうか。(ま、小説の愉しみ方としては邪道なのかも知れないけど。)

 SF小説の場合はどうだろうか。「アンチSF」と言われてすぐに思い浮かぶ作品はB・W・オールディスの『世界Aの報告書』。(マニアな話題ですいません。^^;)
 全般的に「ニューウェーブSF」と呼ばれる作品群は、程度の差はあるにせよどれも「アンチSF」の香りが強いといえる。ただし一部作家の作品を除いては、ジャンルの枠から溢れだす「過剰さ」に乏しく、読んでもさほど面白いものでは無かったりするのが残念。SFにおいてもやはりジャンルの約束事に反しているというだけでは駄目で、なお且つ物語としても優れていることが必要と考える。
 その意味で自分にとって及第点と言えるのは、ディックの晩年の作品群『ヴァリス』『聖なる侵入』あたりだろうか。他にはバラード『残虐行為展覧会』とかディレイニー『ダールグレン』なども。レムの『虚数』はSFじゃなくて文明批評みたくなっていくから対象外かな?(収録作の「ゴーレムⅩⅣ」だけならOKかも。)
 悩むのはリンゼイの怪作『アルクトゥールスへの旅』あたり。―ここらへんになると、まだSFというジャンルが確立する以前の作品なので、やっぱり対象外にしないといかんだろうな。ジャンル成立前ではそもそも“枠”自体が無かったわけだから、今の定義からはみ出していて当然だし。
「意識して書かれた過剰さ」でないのに、“後出しジャンケン”で「アンチ」とか決めつけるのはフェアじゃない。

 考えてみると、哲学・思想の分野でいえば木田元の『反哲学入門』なんてのも格好良くて好きだし、映画やマンガではアンチ・ヒーローものが好み。「判官びいき」じゃないけれど、生来ひねくれ者の自分としては、これからも「あー、失敗した。つまらなかったー!」とか云いながら、「アンチ○○」と名の付くものがあればつい手を出してしまうのだろう。(笑)

<追加>
 いろんな例を挙げたついでに、他のジャンルについても考えつくだけ。
 「アンチ・ホラー」としてすぐ思い浮かぶのは、国内では京極夏彦の『嗤う伊右衛門』。海外ではT・M・ディッシュの『ビジネスマン』といったところだろうか。(でも後者については読んでる人ほとんどいないだろうなあ。)良く似た分野で「アンチ・ファンタジー」では、マーヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』3部作を上げておきたい。3作目である『タイタスアローン』後半の展開には驚いた。
「アンチ文学」ならば倉橋由美子とか笙野頼子あたりの作品は皆あてはまるのではないか。あ、筒井康隆の『虚人たち』もそうかもしれない。他にも「アンチ恋愛小説」や「アンチ経済小説」など、探せばきっとあるのだろうが、さすがにそこまでは手を出してないので分からない。(笑)
 きりが無いのでいい加減このくらいにしておこう。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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