『世界怪談名作集(上・下)』 岡本綺堂・編訳 河出文庫

 岡本綺堂は時代小説における捕物帳の嚆矢『半七捕物帳』の作者として有名だが、実は海外の怪奇小説にも造詣が深かった。本書は綺堂が編んだ欧米の怪奇小説のオリジナルアンソロジーで、翻訳も彼自身が行っている。文章が一流なのは当然のこととして、時代を感じさせるちょっと古めかしい言い廻しが小説の雰囲気にぴったり合っていたのも、何だか得をした気分。
 その中から特に気に入った作品を挙げると、まず上巻からはリットンの「貸家」(正統派のお化け屋敷もの)やホーソーン「ラッパチーニの娘」(マッドサイエンティストとその犠牲者の話)。下巻ではクラウフォード「上床」(客船に起こる怪異)、アンドレーフ「ラザルス」(死から生き返った男)、ストックトン「幽霊の移転」(滑稽譚)、マクドナルド「鏡中の美女」(星新一を思わせる不思議話)といったところか。
 以前に読んだ日本の怪奇小説アンソロジー『江戸怪談集』と比べてみると、東洋と西洋の文化の違いが何だか良く分かる気がする。ヨーロッパはデカルトに始まる「近代的自我」が背景にある地域だけあって、たとえどんなジャンルの小説であっても“個人”の恐怖や感情が描かれるのが基本のような印象。
 一方で日本の伝統的な怪談を見た場合、人物の扱いが西洋とは全く違っているように感じた。登場するキャラには一応名前が付いてはいるが、物語の進行上やむを得ず区別のために付けているに過ぎず、いくらでも置き換えが可能。単なる「物語の登場人物」でしかない。
 ロシアの口承文芸学者V・プロップが唱えたように、物語の枠だけが決まっていてその他の条件(=登場人物や細かな展開の仕方など)は自由に組み替えが可能な「昔話」の構造の典型例のようだ。
 しかし本屋で本書を手に取った時には、まさか怪談話を読んで東西の文化比較をする事になるとは思ってもみなかった。(笑) これも綺堂の訳文がよくこなれていて、そのために両者の違いが却って際立ったという事なのかも知れない。今回、改めてこの著者の文筆家としてのすごさを認識した次第。
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