『Amazonランキングの謎を解く』 服部哲弥 DOJIN選書

 表題にある「謎」というのが何かというと、Amazonは数百万点にも及ぶ書籍のランキングを、一体どんなルールに基づいて付けているの?ということだ。
 本書の内容を簡単に要約すると「確率論や数理物理学(統計力学)を専門とする研究者によって書かれた、“確率順位付け模型”によるAmazonランキングや2ちゃんねるスレッドなどの考察」ということになるだろうか。
(学問的に正しい言い廻しになっているか自信は無いが、これでもごく簡単にした言い方。著者の言葉をかりて厳密な言い方をすると「相互作用する多自由度の確率過程と非線形偏微分方程式が流体力学的な極限において結びつくというものの見方の中で、もっとも簡単な実例を提示する。」ということになるらしい。/笑)

 ちなみに、著者の主たる興味は「謎を解く」ところにあるわけではない。抽象的で研究者の独りよがりに陥りがちな「数学」という学問を、実社会に適用してみることで一般人にも敷居の低いものにするのが本書執筆の目的といっていい。したがって第3、5、6章という3つの章では、かなり専門的な数理モデルの紹介が行われているなど、決して「愉しい読み物」のページばかりがあるわけではないので、題名だけみて買う人がいたら、ちょっと面喰うかも。
 とはいっても、高校数学レベルの内容が主であって且つ懇切丁寧に説明されているので、時間を掛けて取り組めば理解できないことはない。しかも親切な事に、数学が苦手な人や表題にある「Amazonランキングの謎」にしか興味がない人は、上記の3つの章を飛ばしても差し支えないような構成にしてある(*)。なんて優しい著者なんだろう。(笑)
 一応、理系教育を受けた端くれとしては「ポワッソン分布」や「パレート分布」、それに「大数の法則」なんていう昔懐かしい単語が頻出するので、読んでいて結構愉しかった。

  *…でも「本章を後回しにして第7章に進んでいただくことも考えられる。」という文の
    すぐあとに、「研究の中心が読み飛ばされることになるゆえ、断腸の思いだが」と
    いった独白があちこちに挿入されていて、著者の本心が垣間見れて結構笑える。

 あまり話を先延ばしにすると、
「“Amazonランキングの謎”は結局解けたのか、もったいぶらないで早く教えろ!」
という声がそろそろ聞こえてきそうなので、結論だけは述べさせて頂こう。
 (尤も本書をわざわざ買って読む人はおそらく第3、5、6章とか巻末の数式集が目当ての人だと思うし、本書のかなり早い段階でランキング決定のルール自体は明かされてしまっているので、ここで述べてしまってもネタバレには当たらないだろう。もしも本書を読む可能性がある人は、念のためにここから後は読まないようにして頂くのも構わない。)


 さて結論だが、Amazonランキングのルールは「注文が入った本はどんな本でも一旦は1位にランキングされる」という至ってシンプルなもの。たくさん読まれている本はひっきりなしに1位になるので常に上位をキープできるが、滅多に注文がはいらない本は次々とランクを落とし続けて、最終的には数万位~数十万位へと変わっていく。それが1時間ごとに更新されることで、今のランキングになるらしい。こんなに簡単なルールで良いのか?と思いたくなるが、シミュレーションしてみると計算結果は正に実際の書籍で検証した結果に一致する。
 考えてみれば、やたら難しいシステムを構成するよりも、これくらい簡単なルールの方が最小コストでシステム維持が出来るわけで、確かに理にかなっているといえる。(何故そうなるのかが気になる人は、本書の中で大変丁寧に説明されているので直接当たって頂きたい。)
 さらに面白かったのは、著者がこのルールを導き出す過程でランキングの解析を行っているうちに、図らずももうひとつの重要な「謎」まで解けてしまったということだ。それは何かというと、「Amazonのビジネスは巷で言われているようなロングテールでは無かった」ということ。これにはちょっとびっくりした。(**)
 Amazonのビジネスモデルは(一般的に信じられているように)ロングテール商品の売り上げによるものではなく、ごく少数のビッグヒットに依存しているのであった。これについても「平等性の指数が1より小さい」と仮定した数式を駆使して厳密に証明されているのだが、まあこの件については、ここでこれ以上深入りするのはやめておこう。
 
  **…尤も「どんな本でも揃うからAmazonで買う」という人がいるように、サイト自体の
     差別化によってファンが増えるという“間接的な影響”は計りようが無いんだけど。
     ロングテールの効果については、むしろそのような企業イメージ向上の方が大きい
     のではないかなあ。

<追記>
 ツイッターに本書を読んだ事を書きこんだら、著者・服部哲弥氏ご本人からお礼のコメントを頂いた。本書を読んで薄々想像していたとおり、やはり律儀で真面目な、まるで「理系の研究者の鏡」のような方だった。(笑)
 本書は(数式が沢山出てくるので)万人にお薦めできる本かどうかは疑問だが、すくなくとも読んでいてとても気分が良い本とはいえるだろう。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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