妄想書房

 最近やたらと本屋を取り上げた雑誌の特集が目につく。例えばBURUTUSでは「本屋好き。」という特集を組んでいて、全国の面白そうな本屋さんの店内写真を眺めていると実際に訪れたくなってくる。そんな折にちくま文庫から丁度『女子の古本屋』という本が出た。こちらは女性の古書店主へのインタビューをまとめたもので、自分好みの「本のセレクトショップ」を目指して奮闘する13人の話。読んでいるうちに何だかムラムラと「自分も本屋がやりたい!」「沢山の人たちに本との出会いの機会をつくりたい!」なんて気持ちが湧いてきた。
 でもいきなり今の勤めを辞めて先の見えない生活を始められる訳もない。そこで思いついたのが「脳内」での開業、名付けて「妄想書房」というわけだ。「どんな店構えにするか?」「専門のジャンルを設けるか?」なんて考えだしたら、これが愉しいの何の。あまりの面白さに止まらなくなってしまった。(笑)

 まずは経営方針から考えた。
 自分のために理想の本屋を考えるのなら、東京駅の松丸本舗とか京都の恵文社一乗寺店などがそれに近い。(もっとも松丸本舗は母体が丸善なので新刊しか扱えないのが残念。絶版や品切れになったタイトルは品揃えすることが出ず、現時点で刊行されている本で我慢するしかないのだ。)
 でも今回は自分のための本屋ではない。対象が不特定多数の人なわけだから、店舗の狙いは自ずと違ってくる。どうせやるなら“何でもあり”の全方位的な品揃えは止めて、ある程度ジャンルを絞ったセレクトにしたい。そこで考えたのが「本好きな大人と本好きな子供のための本屋」という経営方針。また松丸本舗のように本の入荷で残念な思いはしたくないので、新刊と古本の両方を扱うことにして、自由な棚づくりを心掛ける事にした。古本を扱うには古物商免許が必要なので、ついでだから本以外の品も並べてみよう。
―― とまあ、あれこれ愉しく構想を練ることしばし、本日ここに無事“開店”を迎える事が出来た。以下はその全貌である。

<店構え>
 道路に面した平屋建ての路面店で、出入り口は右と左の2か所にある。(二つの出入り口の間にはレジがあるという一般的な郊外型書店の造りをイメージしてもらえばいい。)
 広からず狭からずの丁度いい大きさの店内に入ると、レジのすぐ前にはちょっとしたイベントスペースが設けられていて、平台にその月のイベント用の本が展示してある。周囲の壁は天井まで作りつけの棚がしつらえてあり、その間には大人の背の高さくらいの棚が数列と少し広めの通路が交互に設けられている。店内は大きく二つのゾーンに分けてあって、入り口を入り向かって右には大人向けの本が、そして左には子供向けの本が置かれている。

<大人向けゾーン>
 この妄想書房は人文系の本や小説がウリになっていて、大まかなジャンルは次の通り。
  ■哲学・思想
   現象学から実存主義、ポストモダンからジェンダーまで様々な分野のハードカバーが
   東西を問わず。なかでも竹田青嗣と中沢新一は全著作を切らしたことが無い。
  ■教養系の文庫・新書・選書
   岩波/筑摩/講談社(学術)/中公/河出/光文社(古典新訳)などの各文庫と、
   新書にさらに平凡社ライブラリーを加えた主要な教養系は、一通り押さえてある。
   また講談社選書メチエや角川・新潮など各出版社の選書からも面白いものをピック
   アップして販売。(もちろん新刊と絶版を問わず面白いものは何でもOK。)
  ■古典いろいろ
   岩波文庫があればそれだけで結構充実はするが、一応平凡社の「東洋文庫」の目ぼしい
   ところは押さえよう。江戸の古典とキリスト教文化にまつわるものは特に充実させる。
  ■幻想・怪奇・SF・ファンタジー・ミステリ
   このジャンルはかなりのスペースを割いて手厚くしてある。創元推理やハヤカワは当然
   のこと、国書刊行会とか月刊ペン社の妖精文庫あたりまで。またサンリオSF文庫も良い
   ものだけをチョイスしてリーズナブルな価格で提供。
  ■マンガ
   あまり流行のものは置いてない。ざっと名前を挙げると、ますむらひろし・諸星大二郎・
   大友克洋・杉浦茂・たむらしげる・鈴木翁二・森雅之・つげ義春・水木しげる・手塚治虫
   石ノ森章太郎など。
   その代わりこのあたりのマンガ家の作品は、出版社に関係なく集められるものはほぼ
   全部を揃える。また少女マンガはよく知らないので、とりあえず大島弓子/萩尾望都/
   魔夜峰央あたりから並べて、お客さんのアドバイスをもらいながら増やしていこう。
  ■エッセイ
   特に沢山揃えてあるのは「食」と「旅」と「本」にまつわるエッセイ。変わったところ
   では岸本加代子とか柴田元幸といった翻訳家によるエッセイだけでちょっとしたコーナー
   が作ってあったり。
  ■美術書・写真集
   美術書や複製画ではシュールリアリズムやマニエリスム、日本では若冲という「奇想」
   の作家たちを中心にして、他には浮世絵や水墨画も充実。引き札とか鯰絵など、庶民的
   な印刷物もある。
   写真集ではジャコベッティやキャパ、マン・レイ、ドアノーなどを綺麗にディスプレィ。
  ■その他
   雑誌のバックナンバーは「レコードコレクターズ」「ロッキン・オン」「キネマ旬報」
   といったあたりのみ。CDもキング・クリムゾンやYESといったプログレの大御所
   から、XTCやROXY・MUSICなどの捩じれポップまで、大変に偏った(笑)
   ラインナップが充実。
   邦楽では筋肉少女帯や平沢進、はたまた”りんけんバンド”を始めとする沖縄ポップに
   “たま”や人間椅子などのマニア系が中心。アジアン雑貨が少し置いてあったりもする。

 これらのジャンルがあるところは整然と、またあるところは混然一体となって陳列してある。人脈つながり(*)になっていたり、思想つながり(**)になっていたり。

   *…例えば筑摩書房の編集者である松田哲夫を中心とした、赤瀬川源平から南伸坊や
     藤森照信、荒俣宏らの路上観察学会ネットワーク。

  **…例えばフッサールからハイデガー、サルトルを経て竹田青嗣や西研まで続いている
     現象学の流れ。

<子供向けゾーン>
 正直あんまり詳しく書けないのが悔しいが、子ども向けはとっても大事なので勉強しながら
少しずつでも品揃えを増やしていきたい。
  ■絵本と児童文学
   『ぐりとぐら』や『はらぺこあおむし』といった定番は一通り押さえた上で、長新太や
   たむらしげるなどで店主の個性を演出している。『旅の絵本』などの安野光雅は全部。
   児童文学については赤木かん子さんのお力を借りて今後も拡充していこう。
   また江戸川乱歩の「少年探偵シリーズ」南洋一郎版「怪盗ルパンシリーズ」、それに
   山中峯太郎版「名探偵ホームズシリーズ」など往年のポプラ社ラインナップや、
   岩崎書店および“あかね書房”のジュブナイル版SF&海外ミステリもしっかり。
   (将来のファン育成を兼ねて/笑)
  ■図鑑
   「子供には理科教育が必要」という店主のポリシーから、図鑑の類は“生き物”とか
   “宇宙”とか“鉱物”とか、とても沢山の種類が置いてある。

<その他>
 宮沢賢治は大人と子供の両方の棚にある珍しい作家。あ、レオ・レオーニやロアルド・ダールもそうか。『チャーリーとチョコレート工場』で読書の面白さに目覚めた子供は、やがて大人になり『あなたに似た人』で人生の悲哀を知るというわけ。(笑)
 イベントスペースでは普段は「澁澤龍彦と彼が偏愛する作家たち」とか「笠井潔のミステリ“矢吹駆シリーズ”と現代の思想家たち」なんかのイベントを行う。月に一度は平台をどかして広場を作り、絵本の朗読会を行なおう。夜は大人向けのイベントをやっても好いね。サイン会とか。
 カフェスペースをどうするかは悩むところだ。『蒼林堂古書店へようこそ』のように、開店当初からカフェスペースを併設して、美味しいコーヒーや紅茶、それにこだわりのパンで作った軽食を出したいのは山々。でも1、2年して経営がちゃんと軌道にのってから、隣接する別店舗でちゃんとしたカフェを始めるという手もある。そこではアルコールもOK。(ただし置いてあるお酒は店主のわがままでバーボンウイスキーだけ。)

 ああ、好いなあこんな本屋。でも実際にやったら1年ともたずに潰れそうな気がするが。(笑)


<追記>
 先日この記事をアップしたところ、色々な方から本の品揃えに関するリクエストを頂いた。早速、画集のコーナーにハンマースホイや田中一村を置いたり、片山健の絵本を並べたりと大忙し。(笑)
 今回は「本を買う立場」じゃなくて「本を売る立場」で理想の店ということなので、基本的にご要望にはすべて”お応え”すると考えて頂いてOK。尤も実をいうと、草稿の段階ではもっと具体的な著者名や書名が沢山書きこんであり、煩雑になるため大幅にカットしただけ。だから結構マニアな本まで置いてあると思って頂いてもいいかも。ちょっとだけ例を上げると、児童書の棚には他にも天沢退二郎(オレンジ党シリーズなど)や斎藤惇夫(ガンバのシリーズなど)は全作あるし、幻想・SFなどのコーナーには集英社ワールドSFとか晶文社も揃えた(つもり)。「こんな本はあるかなー?」という風に想像して愉しんで頂ければ幸い。

<追記2>
 もうひとつ書き忘れていたことがあった。それは店内のBGMについて。基本はメロウなJAZZやクラシックを流しているが、ときどき店内で売っているCDの曲を流すこともある。そしてもしもその曲が気に入ったらその場で購入できるというわけ。(らっぱ亭さん、アイデアを有難うございました。)
 また、店員も本好きばかりを選りすぐって雇っているので、どんな問い合わせにも即答できる上、彼ら自身もお薦め作家のミニコーナーを作っていたり。もちろんどの店員も(大崎梢の「成風堂書店シリーズ」みたいに)気分の良い人たちばかりで、とっても明るい職場です。(笑)

 この「妄想書房」、思いのほか面白かったのでまた機会があればいつかまたご紹介したいと思う。ではその時までひとまずさようなら。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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