2011年5月の読了本

『グリム童話』 野村ひろし(さんずいに玄) ちくま文庫
  *グリム童話そのものではなくてグリム童話の研究書。「子どもに聞かせてよいか?」と
   いう副題から分かるように、ときに残酷な描写もある昔話が、そのまま子供向け読み物
   として相応しいかについて論じたもの。著者の見解は明快であり、隠すよりも全てを
   伝える事で子供たちが成長するというスタンス。昔話にみられる典型的な特徴として
   「欠如」⇒「試練」⇒「克服」というパターンが見られ、これを示すために必要な残酷さ
   は改変すべきでないという著者の論旨には納得。小さい時から“口あたりの良いもの”
   ばかり与えていると碌な大人にならないよ。
『ハーモニー』 伊藤計劃 ハヤカワ文庫
  *思春期独特の“負のエネルギー”を帯びた描写が、読むものを冒頭から圧倒する。舞台と
   なるのは近未来の、「生府」と呼ばれる統治機構があまねく社会を覆う世界。その正体は
   中央政府による単純な監視システム(=ツリー状)ではなくもっと巧妙であり、社会の
   成員同士がお互いを監視し合うようなリゾーム状の倫理システムとして描かれている。
   (M・フーコーの「生権力」の完成体にして、A・ネグリが「生政治」とよんだものに
   近い。)他にも「心身二元論」や「アフォーダンス」に「ソマティックマーカー仮説」、
   それに最新脳研究とか“想像の共同体”および“正義”を巡る社会倫理の問題とか、
   色々な分野の知識を総動員して目いっぱい「愉しませて」くれる。大変良く出来た小説
   だが、本書に唯一欠点があるとすれば「この物語は必ずしもSFである必要はない」と
   いう点だろう。同じく非常に高いレベルの作品の『グランヴァカンス』(by飛浩隆)と
   比較するとよく判る。作品としては『ハーモニー』の方が上だが、SF小説としては
   『グラン...』の方が上に思えて好対照。
   センチメンタルな部分もたっぷり盛り込んであり物語としても読みごたえがあって、
   その部分はおそらく三原純や吉田秋生などの、「ある種の少女漫画」に見られる最良な
   部分のエッセンスに近いのではないか ―そんな印象を持った。
『沖縄裏道NOW!』 はるやまひろぶみ他 双葉文庫
  *双葉書房は知る人ぞ知るディープな沖縄本を数多く出す出版社だが、これもそんな1冊。
   大衆食堂のローカルメニューや桜坂の“おばぁスナック”の様子など、観光ガイドには
   絶対に出てこない「素の沖縄」が満載のルポ&ガイドブック。自分にとってはいわゆる
   「オヤツ本」というやつで、スナック菓子感覚で気軽に摘める類の本だ。(笑)
『エレガントな宇宙』 ブライアン・グリーン 草思社
  *理論宇宙物理学者である著者が、ニュートンの万有引力から現代の最新宇宙論である
   「M理論」までを分かりやすく説明した科学解説書。
『マクルーハン理論』   平凡社ライブラリー
  *かつてメディア論で一世を風靡したマクルーハンの全貌がコンパクトにまとめられた本。
『呪の思想』 白川静/梅原猛 平凡社ライブラリー
  *漢字研究の巨人・白川静と日本の歴史研究に一石を投じた哲学者・梅原猛の対談集。
   “孤高の研究者”である白川と、その彼の“おしかけ弟子”を自認する梅原の交流が
   心温まる。
『NOVA4』 大森望/編 河出文庫
  *未発表SF短篇のオリジナルアンソロジーの第4集。特に面白かったのは京極夏彦「最后
   の祖父」と斎藤直子「ドリフター」および山田正紀「バットランド」の3作。「バット
   ランド」を読んだら『神狩り』や『地球・精神分析記録』を読んだ頃の興奮が蘇ってきて
   とても懐かしかった。最新宇宙論やらインド神話やら色んなものからイメージを借りて
   きて“ごった煮”にするという、著者お得意の大技が本作ではうまく成功している。
   どこまでが本当でどこからが著者の仕掛けた嘘なのか判る場合は興醒めしてしまうこと
   が多いが、本作ではその結果できあがる物語が面白かったので好かった。読んでいる
   うちに「もしかしてSFの面白さと小説の面白さは別物なんじゃないか(笑)」という
   気もしてきた。
『族長の秋』 ガブリエル・ガルシア=マルケス 集英社文庫
  *南米を代表するノーベル賞受賞作家・ガルシア=マルケスの長篇小説。文体が凝っており
   すこし取っつき難くはあるが、読んでいくうち眩暈を催すような魔術的リアリズムが炸裂
   する。
『蕃東国年代記』 西崎憲 新潮社
  *翻訳家/作家/作曲家といった多くの肩書を持つ多彩な著者による幻想短篇集。
   「蕃東国」という架空の国を舞台にして、不思議な印象の物語がつづられる。
『孔子伝』 白川静 中公文庫
  *従来の堅苦しい「儒学の大成者」という孔子のイメージを180度ひっくり返した画期的な
   孔子の伝記。白川漢字学による古代中国文化研究の成果のひとつ。
『単純な脳、複雑な「私」』 池谷裕二 朝日出版社
  *脳科学者・池谷裕二の本を読むのはこれで4冊目になるが、どれを読んでもハズレが無い
   のがすごい。本書でも研究者だけが知っている最先端研究の成果を、素人にも分かる
   ように説明してくれてとても面白い。例えば、脳のある部位を電気信号で刺激すると
   「誰かが後ろに居る気配」とか「自分の体や周囲の人達を上空から見下ろす」という
   現象(=幽体離脱)が100%再現できるらしい。オカルティックな現象も今や脳研究に
   よる認識科学の進展により次々と解明されつつあるのだ。ヘンテコなスピリチュアル系
   の人生相談なんかをテレビで観てる人は、もっとこういう本を読むべきだな。(笑)
『世界怪談名作集(上・下)』 岡本綺堂編・訳 河出文庫
  *半七捕物帳などで有名な作家・岡本綺堂は、欧米の怪奇小説にも造詣が深かった。
   そこに目を付けた出版者が彼を口説いて編纂させた怪奇小説アンソロジー。良い怪奇
   小説はどれだけ経っても古びないことのいい見本。
『代表的日本人』 内村鑑三 岩波文庫
  *『世は如何にして基督教徒と成りし乎』で知られる著者が、欧米諸国に「日本を代表する
    人物」を紹介するために著した評伝。元は『茶の本』や『武士道』などと同じく英文で
    書かれた。
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』 ウイリアム・H・ホジスン 創元推理文庫
  *シャーロック・ホームズ譚と同じ頃に書かれた、ミステリと怪奇小説が未分化だった頃
   の古き良き小説。
『ジーキル博士とハイド氏』 スティーブンソン 岩波文庫
  *実は初読。話自体は既に知っているのでわざわざ読んでみる気にならずこの年まで来て
   しまった。読んでみて思ったのだが、スティーブンソンはプロットの作り方が大変巧い。
   流石は『宝島』の作者だけはある。今の目から見れば科学的にちょっと?と思うアイデア
   を使っているので、語り口が違うと単なるこけおどしになってしまうが、語り口がよい
   のでとても面白く読めた。
『江戸はネットワーク』 田中優子 平凡社ライブラリー
  *『江戸の想像力』『江戸の音』に引き続き、「連」に代表されるネットワーク組織や
   廓の文化など、江戸時代に独特で世界的にもユニークな思想・文化体系に関する解説書。
   松岡正剛が「方法としての日本」と呼んだものの実例を知ることが出来る。
『大津波と原発』 内田樹/中沢新一/平川克美 朝日新聞出版
  *3月11日の東日本大震災と原発事故を巡って繰り広げられる、50~100年という長期的な
   視点に立った提言を緊急出版。(4月にネットで中継配信された対談をおこしたもの。)
   中沢新一や内田樹のファンなら彼らが今回の震災をどう理解したかに興味深々だろうが、
   それが良く分かって満足できる。
『夢の国』 ジェイムズ・P・ブレイロック 創元推理文庫
  *ジャックやヘレンといった孤児仲間を主人公にしている点で『ハックルベリー・フィン
   の冒険』の後継でもあり、不思議で不気味なカーニバルが登場する点はブラッドベリや
   トム・リーミイに代表されるカーニバルファンタジーの後継でもある。(ここらへんは
   アメリカ文学の伝統。)本書でもうひとつ重要なのは、題名にもある「夢の国」。これは
   十二年毎の特別な<夏至>の時期にしか現れず、通常の手段では決して辿りつけぬ世界。
   このような“彼方の世界”への憧憬を描くという点では、デ・リントの『リトル・カン
   トリー』やクロウリー『リトル・ビッグ』といったファンタジーの正統的な後継ともいえ
   るのではないか。(このあたりについては訳者あとがきで増田まもる氏が簡潔にまとめて
   くれていて分かりやすい。)
   ブレイロックのゴチャゴチャした作風はビクトリア朝のイギリスを舞台にした”スチーム
   パンク小説”として話題になった『リヴァイアサン』や『ホムンクルス』よりも、本書の
   ように土着の雰囲気がするカーニバルがテーマの方がしっくりくる気がする。なお本書は
   その後『真夏の夜の魔法』と改題されて、同じ創元推理文庫から再刊された。
『桃山人夜話 ― 絵本百物語』 竹原春泉・画 角川ソフィア文庫
  *江戸時代に刊行された妖怪図画のひとつ。京極夏彦の『巷説百物語』で取り上げられた
   妖怪の元ネタとして有名。
『わたしの開高健』 細川布久子 集英社
  *開高健の担当編集者だった著者が、数十年の沈黙を破って作家・開高との交流の日々を
   書き記した本。生前の開高の姿が生き生きと描写されるとともに、作品の成立背景など
   関係者でなければ知り得ないようなエピソードも多く描かれ、彼のファンなら必読書と
   いえるかも。
『ミステリマガジン7月号』
  *このリストには雑誌やマンガは原則として挙げないことにしているが本書だけは特別。
   「特集:ゲゲゲのミステリ<幻想と怪奇>」と銘打って、水木しげるが過去に親しんだ
   作家たちの作品を特集している。短篇が掲載されているのはヘンリイ・カットナー、
   リチャード・マシスン、H・G・ウエルズ、ウィリアム・ホープ・ホジスンの4人。
   (いつの時代の雑誌かと思うようなラインナップだが、このような特集ならいつでも
   大歓迎。久しぶりにミステリマガジンを購入してしまったよ。)
『変な映画を観た!!』 大槻ケンジ ちくま文庫
  *ご存じ筋肉少女帯のボーカリスト大槻ケンジが書いた映画評を集めたもので、イラスト
   は三留まゆみ(彼女が描いた余白にびっしりコメントを書き込んだ似顔絵は誰もが一度
   は目にしたことがあるはず)。取り上げられているのは、ひとくせもふたくせもある
   映画ばかりで、カルトムービーやB・C級の作品が目白押し。「と学会」が世の中の
   変な本を「トンデモ本」と名付けてその変さ加減を楽しんでいるが、それの映画版と
   いう雰囲気がぴったりくる。ただしそのような「変」な作品は確かに多いが、それ以外
   でも、世の中でいわゆる”名作”と呼ばれる作品の中にも実は「劇睡ムービー」が多数
   あることを看破したりとなかなか鋭い。好評だったらしく、ネットで調べたら続巻も
   出ているようだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR