『代表的日本人』 内村鑑三 岩波文庫

 何だかんだ言っても、結局のところは岡倉覚三(天心)が書いた『茶の本』や新渡戸稲造の『武士道』と同じく「外国人に対して日本をPRするために書かれた本」なのだなあ、これは。「日本はこんなに優れた文化を持っているんだ、東洋の野蛮国ではないぞ!」という著者の気概が、読んでいてビンビン伝わってくる。
 内村が「日本人の代表」に相応しいとした人物は、西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹と、そして日蓮の全部で5人。以前に松岡正剛も云っていたように、この面子はいったいどのような基準で選ばれたのだろうか? 著者の意図がいまひとつ分からない。“人間的に優れた人物”や“社会的な貢献をした人物”というのが基本にある感じはするのだが、たとえ身近な人への接し方や性格が高潔であっても、実際の行動や政敵への対応の仕方などに色々と問題のある人物も入っているし...。(敢えて名前を出すのは止めておこう。/笑)
 また著者と同時代の人物が一人もいないというのも少し引っかかりがある。本人の“人となり”について直に知っている訳ではなくて、他の人が書いた伝記などを参考に書いたとおぼしいが、それって本当に正しい情報なのかな?
 ――とまあ、あれこれ考え出すと気になる点が多くあり、正直いって悩ましい本だ。(セイゴウ氏はこの本をだいぶ高く評価していたのだが、彼の場合はかなりひねった読み方をする事があるので、それを素直に受け取って良いのか迷うところではある。)
 でもまあ書いてある内容をそのまま素直に受け取れば、西郷の「敬天愛人」だとか日蓮の求道心だとか、色々と学ぶべきところは多い。変にうがった見方をせずに参考にすべきところは素直にすれば良いのかな。

 ところで、今だったら果たして誰が「代表」として相応しいだろうか、などと考えてみるのもまた一興。そもそも現代の日本人に「伝統的な日本的価値感」というのを期待してはいけないので、選ぶのが結構難しいかも知れない。村上春樹やイチローなんかを思いついたのだが、それ以上は思いつかない。少なくとも政治家は誰ひとりとして候補に挙がってこなかった。(笑)
 明治のころは確かに「日本国家」という共同幻想を保つことが、列強の侵攻(=植民地化)に対する最重要課題であったとは思うが、グローバル化/ボーダーレス化がすすんでいる昨今では、却って「日本」に固執することは人として高潔であることの妨げになってしまう気もする。「日本の代表」などよりも、偏狭な「日本」という枠を軽々と超えていく人物の方に憧れを感じてしまうなあ。
 本書が書かれた後、やがて日本は太平洋戦争への道を突き進んでいくことになる。我々はいったいどこから道を誤ってしまったのか、それを検証するにはいずれにせよ本書や『武士道』のあたりまで遡った上で、改めて順番に考えていくしかないのだろう。今の自分が読んで素直に「素晴らしい」と云い難いところはあるが、色んな考えを巡らす良いきっかけを作ってくれた本だった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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