『ニッポンの書評』 豊由美 光文社新書

 著者は『百年の誤読』や大森望との共著『文学賞メッタ斬り!』などで知られる書評ライター。「書評王の島」というサイトを開いて、ライター育成の活動も行っている良く出来た人だ。(笑) 本書はその“豊社長”が、いつものように「書籍」を対象にするのでなく「書評そのもの」をテーマに書いた痛快な意見書である。
 「書評」に関する書評だから「メタ書評」とでも言えばいいのだろうか。あまり読んだことが無いジャンルの本だったのだが一読したところが、書いてあることがひとつひとつどれも共感でき、面白くてその上勉強にもなるという大変好い本だった。(あ、もちろん“万人向け”ということではなくて、ごく一部の人を対象にした場合という条件付きだけど…。)
 それはどんな条件の人かというと「本が好きで/新聞や雑誌の書評を読む習慣があって/自分でも読書ブログで感想を書いたりしてる」という人。―― つまりものすごくニッチ。(笑)

 云ってみれば、本書は彼女が考える「良い書評」とは何か?について分かりやすくまとめた本というわけだが、彼女自身が専門にしているのは文芸書なので話題もそちらについての話が中心。であるから、本書で述べられていることは学術書に対してはあまり当て嵌まらないように思える。彼女自身も本書の中で“文芸書以外の本についてはまた別の書き方があるだろう”という主旨のことはコメントしているので、本書を読む人はもっぱら文芸書評に限ったものとして愉しむのが良いと思う。
 さっそく内容についてだが、彼女によれば「正しい書評」なんてものは存在しないそうだ。つまりどんな風に書いてあっても読んで面白ければそれで良いということ。「良い書評」はあっても「正しい書評」なんてものは存在しないというのだから、「自分の主張を滔々と述べて読書子を啓蒙するのが書評家の務めだ」なーんて思っている昔ながらの批評家には、ちょっとばかりうっとおしい話かも知れない。(もちろん自分は先程も述べたようにこの意見に全面的に賛成の立場なわけだが。)
 なぜ彼女がそのような考えに至ったかというと、「書評」と「批評」は別物と考えているからなのだそうだ。「書評」とは800字から1200字程度の比較的短い文章で、「その本を未読の人」へ紹介するのが主も大切な仕事。すなわち自分の判断でその本を貶したり、(たとえ褒めるためであっても)ネタバレによって未読の読者の興味を削ぐような書き方はご法度。一方「批評/評論」というのは、既にその本を読んだ人間を対象にしていて、批評家の主張や意見を述べるのを主目的として書かれている。だからネタバレだろうが作者への批判だろうが、基本的には何でも許される(と思って書かれているケースが多い。しかし雑誌や新聞に掲載される場合、どちらも区別なく扱われている事が多く、不用意に読むとネタバレという“地雷”を踏んでしまうケースもままある。)
 ちなみに日本の出版業界では昔から「批評/評論」の方が「書評」よりも格が上というイメージが強くて、批評家と書評家との間には厳然たるヒエラルキーが存在するそうだ。その状況を少しでも改善しようと彼女が折に触れて強く言い続けてきたのが「書評は批評とは別の独立した文芸ジャンルである」ということ。
 その時々で“お題”にした本を深く読みこむのがまずは前提なわけだが、更にその上で愛情を込めた美しい紹介文にいかに練り上げるか?という事こそ「書評」を書く際に最も重要な点で、逆に言えばそれ以外のセオリー(=正しい書評の書き方)なんてものははなから存在しない。また主な活動の場である雑誌の文芸欄は、多くはオマケ的な扱いが多くて紙面が限られており、ライターは文章からギリギリまで虚飾を削ぎ落して、まるで俳句や詩のように刈り込んでいく感性やテクニックを持つ必要がある。(*)

   *…ただしこれはプロの書評家に特有の条件。もちろん読書ブログや読者レビューで
     書いているアマチュアはどれだけ書いても構わないわけだが、その分つまらない文
     を垂れ流す危険は大きいといえる。

 著者は「プロが書いた書評」の実例を挙げて説明してくれていて、そんな「良い見本」の書評を読むと短い文章の中に自分の伝えたい事を盛り込もうと涙ぐましい努力をしているのが分かる。なお、本書が恐ろしいのは同様に「悪い見本」についても実例が挙げられている点。こうして具体的に説明されるとよく理解できるが、取り上げられた文章を書いた人(=多くは“偉い先生”)と険悪な関係になるのは必至。我が国における書評の地位の向上のため、筆者はまさにライター生命を掛ける「覚悟」なのだ、まことに頭が下がる。(とはいえ文章自体は明るいので読んでいて辛くなるような悲壮感はないので大丈夫。)
 書評とは自分の思いつくことを、ダラダラ書き連ねさえすればそれで出来てしまうような、単純なものでは決してないのだということが、本書を読むと大変良く分かる。自分も反省することしきりである。(^^;)

 他にも海外における書評事情が詳しく紹介されていたりで話題も豊富。また超有名な某Webサイトの「カスタマーレビュー」で悪口を垂れ流す輩を快刀乱麻、バッサバッサと切り捨てるなど、胸のすくような大活躍で読んでいて愉しいのなんの。この本の面白さは単に「本をネタにしているから」というだけでなく、著者の書きっぷりも大きな原因のひとつであるような気がする。もしも書評に興味がある人なら一度は目を通しておいても損はしない。ましてや本をテーマにしたブログを書いている人なら必読といえるかも。

<追記>
 折角の良い機会なので、このブログ(『お気らく活字生活』)を書く上で自分が決めたルールについて書いておきたい。基本的にこのブログは読んだ本についての感想を“自分の好き勝手に”書き連ねるための場と思ってやっている。ただし曲がりなりにも不特定の方に対して公開する訳だから、ネタバレや独りよがりの批判めいた言説は書かないように、出来る限り気は使っているつもり。
 特にフィクション系は気を付けている。所詮は「感想」なので、読んでいないと何のことかよく分からない話が多いと思う。しかしもともと自分自身もネタバレ書評には腹を立てている口で、読むつもりがある本(文芸書)の書評には日ごろから一切目を通さないほど。だから取り上げる文芸書については、ネタバレはおろか設定についても極力書かないようにしている。(書くとしてもせいぜい本の裏表紙などに書かれているレベルまでかな。) もしもブログで書きたいことがあって、それがどうしてもネタばらしになってしまう場合は、その旨を先に断わった上で書くようにしている。
 尤も学術系の本に関してはスタンスが全く逆。感想を書くためには内容に触れざるを得ない事と、本を処分してもいいように備忘録を兼ねているので、フィクション系とは反対に内容の要約を中心にしている。極論すれば「読まなくても読んだ気になれる」というのが理想といえるかも。学術系の本は細部を読みこむ事に本当の愉しさがあるわけで、概要を知ったところで実際に読むときに面白さが減るわけでもないしね。むしろ一冊の値段が高くて“外した時”のダメージが大きいので、文芸書とは逆に書評で中身を良くチェックしてからでないと怖くて買えないというのが本音。

 というわけで、このブログの記事については取敢えず安心して読んで頂いても結構です。(笑)
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はじめまして

はじめまして、YO-SHIといいます。読書ブログをやっています。

私もこの本を最近読みました。
おっしゃる通り、本をテーマにしたブログを書いている人は、
読んでみるといいですね。

ただ、方々に向かう著者の切っ先が、ブログにも向いているので、
バッサリ斬られてしまわないよう気をつけないといけないですね。

こちらこそ初めまして

YO-SHIさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
読書ブログをされているのですか、今度機会がありましたら拝見させて頂けると嬉しいです。

内田樹が『街場のメディア論』で書いてましたが、本は著者からの贈り物なんだとか。
とすればブログで皆さんにお見せしてるこの文章も、私からの贈り物の一種なわけで、もらった方が有難迷惑にならないように気をつけなきゃ...と自戒しつつ読みました。(笑)

それではこれからも宜しくお願いします。
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舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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