2011年4月の読了本

『マルチチュード(上・下)』 A・ネグリ/マイケル・ハート NHKブックス
  *社会学系の学術書では珍しく世界的ベストセラーになった『<帝国>』の続篇。
   グローバル社会を覆うあらたな脅威である「帝国」の概念と、それに対する唯一の対抗
   原理「マルチチュード」をめぐる彼らの思索は、全部で3部作を形成するとのこと。
   前作は5,800円を超える高額なのでとても手が出ないが、本書でも一通りのおさらいを
   してくれているので読む上で支障は無い。たとえばエジプトやリビアにおける反政府
   運動や渋谷の反原発デモなどの、今の世界で起こっている様々な出来事を理解する上で
   とても良い視座を与えてくれる好著といえる。
『きょうも上天気』 浅倉久志/訳 大森望/編 角川文庫
  *2010年におしくも他界した名翻訳家の浅倉久志氏を偲んで編まれたオリジナル短篇集。
   未読作はル=グィン「オメラスから歩み去る人々」とワイマン・グイン「空飛ぶヴォル
   プラ」の2つだけだったが、どれも面白かったのでいいや。本書の良いところは、
   結果的に50~60年代の所謂「黄金時代」とよばれるSF短篇アンソロジーになっている点
   だろう。おかげで中高生のころに夢中で読みふけっていた頃の記憶が甦った。
『そうだ、ローカル線、ソースカツ丼』 東海林さだお 文春文庫
  *東海林さだおのエッセイは、“食”に関する話題に絞った「丸かじり」のシリーズと、
   そうでないのがだいたい交互に出される。今回は後者の方でいずれにしても相変わらず
   面白い。しかし傍若無人な若者に対する著者の怒りは既に“芸”の域にまで達しつつ
   あるなあ。(笑)
『ヘミングウェイ短篇集』 西崎憲/編・訳 ちくま文庫
  *ヘミングウェイの短篇から選りすぐったオリジナルアンソロジー。作品の選択と配置に
   編者・西崎氏のセンスが光る。
『ドクター・ラット』 ウィリアム・コッツウィンクル 河出書房新社
  *長らく翻訳が待ち望まれていた作品で、1977年の世界幻想文学大賞受賞作。アブラム・
   デヴィッドスンの『エステルハージ博士の事件簿』と同じくストレンジ・フィクション
   の1冊として出版された。(河出書房のこの叢書は今後も注目したい。ハードカバー
   なのでちょっと値段は張るが買うだけの価値はある。)世界中の動物たちの反乱の顛末
   を、気が狂った天才ネズミである「ドクター・ラット」の独白で語るという悪夢に満ちた
   傑作寓話。動物実験や屠殺場の様子などが、(かなりカリカチュア/戯画的ではあるが)
   これでもかというくらい克明に描写されている。少し悪趣味な面があるのは否めないが、
   残酷さから安易に逃げないという創作姿勢は、逆に本作にある種の崇高さを持たせる事に
   成功していると思う。高橋源一郎もかなり本気で巻末の解説を書いていてgood。
   悪趣味と崇高さが同居するこの作風には、どこかで記憶があると思ったら…そうか、
   デビューしたての頃の舞城王太郎だ!(って、ミステリ好きでないと判らない喩えで
   申し訳ない。/笑)
『アーサー王ロマンス』 井村君江 ちくま文庫
  *アーサー王と円卓の騎士の伝説について分かりやすくまとめた、肩の凝らない楽しい
   読み物。
『ビブリア古書堂の事件手帖』 三上延 メディアワークス文庫
  *古本屋の店主と店員が主人公のミステリ。著者がライトノベル出身なので本書もライト
   ノベルの体裁で出されており、買うのに少し勇気がいった。(笑)
   しかしネットでの評判通り、中身は創元推理文庫の1冊として出ても違和感がないほど
   クオリティが高い。
『江戸怪談集(下)』 高田衛/編 岩波文庫
  *江戸時代に刊行された怪談集から厳選した作品集の第3巻で、本作には「諸国百物語」
   「新御伽婢子」「平仮名本・因果物語」「百物語評判」の4つを収録。
『千のプラトー(中)』 ドゥルーズ/ガタリ 河出文庫
  *ポストモダン思想を代表する評論にして最大の問題作の2巻目(文庫版は全3巻)。
『雨の日はソファで散歩』 種村季弘 ちくま文庫
  *2004年に亡くなったドイツ文学者の最後となった自選エッセイ集で、いわば著者の
   “白鳥の歌” (出版は死後)。しかしフランス文学の澁澤龍彦といい、この種村季弘と
    いい、ヨーロッパ文化の碩学がなぜか晩年には揃って日本へ回帰するのが面白いなあ。
『翼の贈りもの』 R・A・ラファティ 青心社
  *マニアに根強い人気を誇るR・A・ラファティの新刊短篇集。
『殺人者の空』 山野浩一 仮面社
  *日本にニューウェーブSFを広めた立役者による短篇集。出版自体はかなり前の本で、
   昔からずっと読みたかったのをつい先だって入手、早速読了した。主人公が不条理な事
   に巻き込まれていくというカフカばりの話が多く、登場人物が皆一様に生きることへの
   不安や世界への不満を抱えているのが、如何にも70年代の作品らしくて好い。
   特に気に入ったのは表題作と「メシメリ街道」。「首狩り族」もシュールなイメージで
   悪くない。
『陰翳礼讃』 谷崎潤一郎 中公文庫
  *日本を代表する作家による随筆集。昭和初期に書かれたものが中心で、照明や食事などの
   生活環境/習慣について、日本の伝統的な文化のよさを見直すことを提案。文藝作品の方
   とは違って、言っている内容は至ってまともなのでびっくりした。(笑)
   今の視点で読めば至極あたりまえの事を述べているようにもみえるが、当時の社会背景を
   よく知らないのでなんとも言えない。もしかしたら当時は画期的であって、逆に社会通念
   に影響を与えた結果が今だったりして。
   夜の照明は何でもかんでも明るければ良いという物ではなく、適度な陰翳(いんえい)
   ができるくらいが良いというくだりは特に有名で、節電によって明暗の良さが見直されて
   いる現代にも充分に通じる内容と思う。
『ニッポンの書評』 豊由美 光文社新書
  *書評を中心に活躍するライター“豊社長”による、「書評とは何か」についての意見を
   まとめた本。著者は『百年の誤読』や大森望との共著『文学賞メッタ斬り!』のシリーズ
   で有名な人。出版予告を見て中身を確かめもせず即買いしたのだが、期待に違わず滅法
   面白かった。自分のように本のブログをやってる人間には必読といえるかも。
『能面殺人事件』 高木彬光 春陽文庫
  *傑作ミステリ『刺青殺人事件』でデビューした高木彬光の第2作目。日本探偵作家クラブ
   (現:日本推理作家協会)のクラブ賞を受賞している。ヴァン・ダインのミステリが
   多く引用されており、中で思い切り『僧正殺人事件』の犯人がばらされていたのは如何
   なものかと思ったが(笑)、物語としては面白い。高木彬光といえば映画化された代表
   作品『白昼の死角』のせいで、社会派ミステリ作家というイメージが強かったのだが、
   実は新本格の元祖のような人だったというのがよく判った。
『妖怪学の基礎知識』 小松和彦編著 角川選書
  *著者が長年進めてきた妖怪研究の成果について「妖怪ビギナー」にも分かりやすく解説
   した本。妖怪についての最新知見が惜しげもなく開陳されていて、初心者はもとより
   すれっからしの妖怪ファンにも愉しめる一冊。『江戸怪談集』の補足としても読むこと
   が出来るが、『江戸…』を読んで考えたことが概ね間違ってなかったので良かった。
   このような本が選書の形で比較的安く手に入るのは、学問の裾野を広げる意味で大切。
   もしもこれが京極夏彦とドラマ『ゲゲゲの女房』のおかげだとすれば有難いことだ。
   (笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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