『江戸怪談集(下)』 高田衛/編 岩波文庫

 しつこいようだが、結構気に入ったので『江戸怪談集』をもう一度とりあげる。
 江戸時代に刊行された多くの怪談話に題材をとった全3巻のアンソロジーで、今回読んだのは先日取り上げた中巻に続いて2冊目となる下巻。(残念ながら上巻は手に入れてないので今読めるのはこれで最後。)もともと自分は西洋のゴシック系のホラー小説が大好きなのだが、この2冊を読んでみて本邦の怪談話も肌に合うというのがよく判った。まあ結局のところ単に「幻想怪奇な話」が好きだという事なのだろう。(笑)
 本書に収録された作品は『諸国百物語』『平仮名本・因果物語』『新御伽婢子』『百物語評判』の4つ。中でもとりわけ気に入ったのは『諸国百物語』。中巻に収められていた『曽呂利物語』と同趣向のものが多くあって、話として一番面白く感じた。後になって色々な作品の元ネタにされたとおぼしきものも数多いので、判った物についていくつか挙げてみる。

 ■「播州姫路の城ばけ物の事」
   泉鏡花の「天守物語」の中で、物語の骨格として使われている。
 ■「京東洞院、かたわ車の事」
   そのままゲゲゲの鬼太郎の中で「片輪車」という妖怪で出てくる。
 ■「ばけ物に骨を抜かれし人の事」
   同じくゲゲゲの鬼太郎で「手の目」という座頭の妖怪として出てくる。
 ■「会津須波の宮、首番(しゅのばん)と云うばけ物の事」
   「天守物語」では「朱の盤」という名前で出てくるが、話自体は小泉八雲の『怪談』に
    でてくる「貉(むじな)」という話と同じ。繰り返しによる恐怖を盛り上げる語りが
    巧い。
 ■「酒の威徳にて、化け物を平らげる事」
   これは今までのモノとは少し違うが、まるでペロー作の『長靴をはいた猫』にそっくり
   なエピソードが出てくる。(最後には化け物を梅干しに化けさせて食べてしまう。)
   所詮人間が考える事は同じという事なのか、それとも共通の元ネタがどこかにあると
   言う事なのかな?

 他の収録作についてもかるく触れておこう。
 『平仮名本・因果物語』は中巻に収録の『片仮名本・因果物語』と対になった話であって、どちらも禅宗の高僧・鈴木正三が編纂したもの。『新御伽婢子(しんおとぎぼうこ)」は同じく中巻に収録されている『伽婢子(おとぎぼうこ)』の“二匹目のドジョウ”を狙ったと思われるが、典拠が前作のように中国説話でなくなり、単なる民話集になってしまっているのが残念。そのせいか、話の面白みという点では前作に少し劣る気がする。
 最後は『百物語評判』だが、この話は他と趣旨が少し異なる。「怪奇な物語を愉しもう」というのが今までの作品だったのに対して、この本の場合は「世の中に伝わる不思議な話」を論理的に解き明かしていこうとする内容。まるで明治期に「妖怪博士」の異名をとった井上円了の著作のようだ。(今ならさしずめ大槻義彦教授といったところか。)

 以上が本作の中身についての感想だが、ここからはまたまたガラッと内容が変わる。今回、江戸時代の怪談を集中して読んでみた結果、当時の怪奇話のパターンが何となく見えてきたので、忘れないうちに書いておきたい。
 『江戸怪談集』に収録されている怪奇話には大きく分けて4つのパターンがあるといえる(気がする)。
 まず1つ目は“人の呪い”や“嫉妬心”に起因するもの。これらの「負の心理」が誰かの心の中に生まれてくると、やがて鬼や幽霊もしくは(なぜか)蛇に姿を変えて、対象人物をとり殺すなどの害をなす。ちなみに呪う人物は必ずしも死者とは限らず、本人が嫉妬心を感じたことで知らないままに生霊になっているケースもある。 
 また、これらが僧侶によって折伏されるオチがつくと、『日本霊異記』や『因果物語』のように仏の功徳を説く物語になるというわけだ。
 パターンの2つ目はキツネやタヌキなどの動物によるもの。キツネやタヌキはどちらも現実に存在する動物だが、江戸の怪談の中では色々なモノに「化ける」力を持つとされる。その点では猩々や雷獣など架空の生物と同じ扱いと言っても良いだろう。いずれも人間に対していたずらを仕掛けてきたり、自分を酷い目にあわせた人間に対して復讐するような話が多い。
 3つ目は出所不明な化け物の類。「○○入道」とか、障子を破って部屋に侵入してくる謎の巨大な腕など、正体不明な怪異の比率も結構高い。なお、なぜか蜘蛛だけが唯一、実在の生き物の中でこの仲間に入れられている。理由もなく突然人間を襲ってくる化け物蜘蛛というのは結構怖い。(笑)
 最後の4つ目は仙術や桃源郷のような、正確には怪談というより幻想譚と言った方が良いタイプの話。死んだ人が生前と同じようにあの世で暮らしているというのも割と多いが、これなんかは、おそらく中国の話のスタイルを真似たものだと思う。これなんかも怪談というより「奇妙な話」と呼んだ方がしっくりくる感じがする。

 以上が『江戸怪談集(中・下)』から得られた4つの分類。思いつきではあるけれども、それほど大きな間違いは無いんじゃないかと思う。これから日本の怪談を読んでいく時は、この分類を頭においたうえで読んでいくことにしよう。そうすれば今までよりもっと愉しめるような気がする。(いつか上巻が手に入ったら是非試してみたい。)
 今回は物語として読んで面白かったうえに、頭の整理まですることが出来たので、更に得した気分だった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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