『アーサー王ロマンス』 井村君江 ちくま文庫

 今回は題名にもある通り、ホントにお気らくで気ままな読書だった。

 イギリスを中心に伝わるアーサー王伝説は、昔から様々なファンタジーやロマンスの源泉となってきた。でも実を言うと、その全体像についてはあまり知らなかったりするのだ。知ったかぶりするのも嫌だし、いつか機会があったら大掴みで知りたいと思っていた。そんな折、たまたま本屋で見かけた本書をパラパラめくってみたら、格好の入門書と思われたので早速買って読んでみた。
 で読んだ感想だが、アーサー王伝説を(乱暴にも)ひとことでまとめてしまえば、騎士道と伝奇物語と神秘思想の3者が入り混じって出来た「剣と魔法」の元祖みたいなものというのが良く判った。
 「騎士道」とは公明正大を旨として国王に使え、ひとりの婦人との(プラトニックな)愛を貫くのを理想とする中世ヨーロッパの剣士の“生きざま”のこと。「騎士道物語」とは出会うそばから意味も無く闘って勝った方が負けた方を家来にしたりという、まあ言ってしまえば「武侠小説」みたいなものなのだが、今言った精神論の部分が独特な味付けになっている。アーサー王伝説の中では、アーサーと円卓の騎士(150人もいるとは知らなかった!)の関係に焦点をあてた武勇伝としての側面がそれにあたる。
 つづく「伝奇」とは、アーサーの出生や即位にまつわる魔術師マーリンや、名剣エクスキャリバー(エクスカリバー)を彼に与えた湖の妖精など、古代から伝わるケルト神話が元となっている超自然的エピソードのこと。この「騎士道」と「伝奇」の二つの要素が合わさった物が、現代でも人気を博している「剣と魔法」の物語の大元のイメージを(少なくとも重要な一部については)形作ったといえるだろう。
 最後の「神秘思想」というのは、処刑されたキリストの血を受けたとされる聖杯の探求にまつわる物語。前の2つの要素とはかなり雰囲気が異なり、話としても少し無理やりの感じがするので、おそらく後代になってから付け加わったのではないかと推察する。(*)
 なんだか理由はよく分からないが、円卓の騎士たちはアーサーの命により聖杯を探す旅に出るのだ。しかもその中で何人かは聖杯を見つける事に成功するのだが、それで何をするでもなくアーサーの元に帰ってきて「聖杯を見つけました」と報告するだけ。(笑)
 なお誤解が無いように言っておくが、アーサー王伝説における聖杯の探求の物語が決してつらないわけではない。むしろアーサー王伝説のメインとなるエピソードとも言えるわけで、キリスト教系の神秘思想はかなり好きな方だからとても面白く読めた。ただ何となく、キリスト教会が布教のために「アーサー王と円卓の騎士」という昔から人気があった説話を利用した――そんな印象を強くもっただけ。ケルト伝説にキリスト教が徐々に浸透していく様子がまるで目に浮かぶようで実に愉しかった。

   *…これもケルト絡みの「豊穣の大釜」の伝説と関連があるようだが、本書では詳しく
     触れられていない。

 登場人物についても少し触れておこう。一読するとラーンスロットやパーシヴァル、ガレスにガラハッドなどさすがの自分でも一度は聞いたことがある、名だたる円卓の騎士たちの名前が目白押し。もっとも「トリスタンとイソラド(イゾルデ)の悲恋」など、もとがアーサー王伝説によるものだとは知らなくて驚いたエピソードも同じくらい数多くあったが。
 このあたりの物語とか『ニーベルンゲンの歌』なんかを押さえておけば、ヨーロッパの古典文学がおそらくもっと愉しめそうな気がする。その意味では、本書のように気軽に読める入門書が文庫で楽に手に入るというのは、とても大事なことなのかもしれない。

 最後に、全体を通して感じた事をひとつ。
 エッダ(北欧神話)を読んだ時にも感じたのだが、なぜかアーサー王伝説も最後は物悲しい終わり方をする。たまたま読んだ二つの物語でどちらも「始まり」と「終わり」がきっちりしているというのは、偶然なのかそれともヨーロッパの伝説全般に共通する特徴なのだろうか?
 前半でアーサーが王になって円卓の騎士が参集するまでのくだりは気分も高まるのだが、ラスト近くになって今まで親しんだ英雄たちがひとりふたりと世を去っていく姿が描かれると、なんだか無常感のようなものを感じてしまう。このあたりはインド神話や日本神話、それに南アメリカのインディオの神話などには見られない独特の終わり方だなあ。
 いや、だからといって何か結論じみた意見があるわけではないんだけど。(笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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