『第二の銃声』 アントニイ・バークリー 創元推理文庫

 今この時期にアップすべきか正直かなり迷ったのだが、色々と思うところもあり、「敢えて」いつもの通りに更新することに決めた。以下の原稿自体は前に書きあげていたものだが、これからも出来うる限り今までと同じ調子でやっていこうと思う。

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 『毒入りチョコレート事件』といえば往年の名作ミステリとして有名だが、正直言ってバークリーはその一作しか知らなかった。当然、読んでたのもそれだけ。1994年に国書刊行会が「世界探偵小説全集」と銘打って埋もれていた名作ミステリを世に出した時も、(なんせ値段が高いこともあって)食指が動かなかった。しかし東京創元社が今回文庫にしたのを良い機会に、何気なく手にとったところ一読驚愕、おみそれしました。(笑)
 とても良く造り込まれた本格ミステリで、作風がとても自分好みだった。ストーリーをくどくど紹介するつもりはないが、裏表紙の紹介を抜粋しておくと「高名な探偵作家ヒルヤードの邸で、ゲストを招いて行われた推理劇。だが、被害者役を演じるスコット=デイヴィスは、二発の銃声ののち本物の死体となって発見された。」というお話。

 主要な登場人物の造形はステレオタイプ(典型的)なものばかりといってもいいだろう。たとえばこんな感じだ。(なお本書の語り手でもあるピンカートン以外の人物については、あくまでも彼から見た印象。)
 ■シリル・ピンカートン:
  主人公であり本書の語り手。イギリス紳士然としているが度が過ぎて、周りから失笑を買っ
  ていることにも気付かないにぶい独身男。ピンキーという嬉しくない綽名を付けられる。
 ■エリック・スコット=デイヴィス:
  名うてのプレイボーイで、ピンカートンとは対照的。俗世間の極めて低レベルな話題にしか
  興味がなく、自分と違う志向の持ち主を徹底的に馬鹿にする。恨みをかって本当に殺されて
  しまったが誰も同情せず。
 ■ジョン・ヒルヤード:
  著名なミステリ作家だが朴訥として「ちょっと鈍いんじゃないか?」とさえ思えるほど寡黙
  な人物。地元では作家ではなく農園主として知られ、本人も農場経営などの(つまらない)
  話題しかしない。
 ■アーモレル・スコット=デイヴィス:
  エリックの従妹だが性格は似ていない。男装してタバコをくわえていつも斜に構え、男勝り
  で気難しい気どり屋。
 ■エルザ・ヴェルティー:
  世間知らずだがとても気立てが良いお嬢様。エリックの毒牙にかかるのを周りの皆が心配
  している。
 ■シルヴィア・ド・ラヴェル:
  元女優。謎に満ちた性格の持ち主で結構シニカル。何を考えているかわからない。
 ■ポール・ド・ラヴェル:
  シルヴィアにぞっこんで、裏切られている事にも(本人だけ)気付いてない馬鹿な亭主。

 最初のあたりは、1930年の作品なので人物の造り込みが甘いのも仕方ないかと思いながら、そんなに期待せずに読み進んだ。実を言うと自分はピンカートンのようなキャラが主人公の話は苦手なのだ。(喩えるならイアン・サンソム『蔵書まるごと消失事件』の主人公・イスラエルとか、昔のテレビ番組『宇宙家族ロビンソン』に出てくるドクター・スミスみたいなタイプ…といってもよけい分からないか。/笑)
 しかしこの人物造形は全てバークリーによる計算尽くだったことが、後になって徐々に判明してくる。たしかにステレオタイプのキャラが満載だが、読んでいく途中で思わぬ人物が新しい貌を見せてくれて、次々と印象が変わっていく。本当にステレオタイプのキャラとそうでないのが入り混じって、ピンカートン(途中でピンキーという綽名を頂戴する)の恋の行方とともに物語は最後まで予断を許さない。例えば230ページでピンカートンとエルザの間に会話が交わされるこんなシーンがある。
「ありがとう」彼女は小声で言った。「これでずいぶん――ずいぶん楽になったわ」
 後から読み返すと、こんな何気ないシーンにも作者の神経が行き届いている気がする。

 2月に出たばかりだがさっそく重版がかかったようで売れ行きも順調とのこと。好い本がちゃんと評価されているのを聞くと素直に嬉しい。
 本書が気に入ったので、慌てて同じ作者の『ジャンピング・ジェニイ』を買ってきて「次に読む本リスト」の末席に加えておいた。植草甚一を気取るわけではないが、何も用事がない日曜日や雨降りの日には、もう少し“ミステリーでも勉強しよう”。(笑)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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