『一寸法師』 石田英一郎 アテネ文庫

 かつて弘文堂のアテネ文庫という叢書があった。敗戦後の荒廃した時代に人々に少しでも心の糧を、という意気込みで創刊されたものだ。全部で300点ほどが出版されたらしいが、今回その中から40冊が復刊された。今の時代における文献的・学術的な価値は良く分からないが、刊行リストにはキラ星のような名前が並んでいて、書名と著者名をみているだけでも眼福といえる。新しい時代の日本に向けて、当時の著述家たちが伝えようとした真摯な思いは、今の我々でも充分に感じることが出来る。その心意気やよし。

 本書はそんなアテネ文庫復刊リスト中の一冊であり、文化人類学者の石田英一郎が昔話「一寸法師」のルーツについて考察したもの。ちなみにアテネ文庫はジュンク堂と丸善(の一部店舗のみ)の限定販売らしい。先程は偉そうに書いたが、実は自分も新年会の待ち合わせでジュンク堂をうろうろしていた時に偶然見つけただけ。(笑)
手にとって眺めているうち装丁に一目惚れしてしまい(*)、つい衝動買いしてしまった。
 前にネットでニュースをちらっと見かけたことはあったのだが、その時は全く興味がなく、実物を見るまですっかり忘れていた。こんなことならもっと前に立ち寄るんだった。(苦笑)

   *…紙が不足していた時代の本なので一冊が100ページに満たない小さな本なのだが、
     表面が経木(=昔の焚き付けなどに使われた、木を削いで紙のように薄くした物)
     で覆われているようで、ひとつひとつの木目柄が全部違っている。とても美しい上、
     手に持った時の感触や質感が何ともいえず良い。

 外見ばかり褒めていないで内容についても触れておこう。著者はさすがに柳田國男を敬愛するだけあって、基本的な見解は柳田のそれを踏襲している。同じ著者による『桃太郎の母』(講談社学術文庫)や『河童駒引考』(岩波文庫)と同様で、日本に古くから伝わる昔話や妖怪たちを古代の神々が零落したものとして捉えている。小松和彦らが活躍する今となっては、いささか古めかしさが否めない感もある。しかし一寸法師の正体を「小サ子」にもとめ、「うつぼ舟」や「原始(大地)母神」とのつながりから「水神」「竜神」へと進む本書の考察は、日本を遥かに超えてアジアまで視点を広げており、スケールが大きく読んでいて気分が良い。小冊子なので読み終わるのに時間もかからず、ちょっとした気分転換に最適だった。

 くどいようだが装丁については最後にもう一度繰り返しておきたい。今回アテネ文庫に出会うことで「物体」としての本の良さを再認識することが出来た。こればっかりはいくら電子書籍が逆立ちしても出来ない芸当であり、紙の書籍と実店舗の書店が今後も生き残っていくにはこういう方法もあったかと。
 何にせよ売り場にある同じ本の柄が全部違うというのはまさに壮観で、なるべく多くの人にぜひ店頭で実物を手にとって見てもらいたい。そして(定価はちと高めだが)なるべく多くの人に買ってもらいたいと切に願う。

 世の本好き達よ、ジュンク堂へ急げ!
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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