『日本語のしゃれ』 鈴木棠三 講談社学術文庫

 いわゆる言葉遊びの「しゃれ」について文献や歴史的な観点から考察を行った本。言葉遊びの分類だけでなく、それらを背後で支える「しゃれっ気」の概念も含めてまとめてあり、自分には「しゃれ」そのものに関する記述よりもそちらの方が面白かった。以下、興味深かった部分をかいつまんで紹介する。
 
 「しゃれ」と言う言葉の語源は、「さる」という動詞が変化した「しゃる」の名詞形とのことだそうだ。変化する過程で微妙に意味が違う「しゃれ」と「じゃれ」の2つに分かれたらしい。
 「しゃる」という言葉は元々「風雅である」とか「世馴れている」「あだめいている」といった意味だったが、後になってそこに「戯れる」という意味が加わって「しゃれる」になったのこと。今でも「オシャレ」という意味で普通に使われている。また「じゃれ」については「じゃれる」という表現で今に残っている。
 ちなみに「しゃれ」を漢字で書くと『洒落』になるがこれは後世の当て字。「シャラク」という読みを持つ漢語起源の文字が、音の類似から流用/同一視されていったと思われる。『洒落』の本来の意味は「酒=ものごとに拘らずさっぱりしている」+「落=こせこせしない」の2つの漢字を掛け合わせたもの。それが「しゃれ」という日本語の当て字として使われた時に、更に意味の混合が起こり現在使われている意味のことばが成立した。
なお現在の意味は九鬼周造が『「いき」の構造』で分析した「粋」というものに(*)、陽気な楽しさや当世風の“軽さ”のエッセンスを加えたものと言えるかな。

   *…九鬼によれば「粋(いき)」とは江戸で武士と町人の文化が混じって生まれた
     概念で、次の3つの因子からなる。
      ①(異性に対する)媚び
      ②(弱みを見せない)意気地
      ③(物事に執着しない)諦観
     上方の「粋(すい)」とは似てるようだがちょっと違う。

 「しゃれ」という名詞は今では“言葉”に関する意味に限定して使われているが、江戸時代にはもっと広い意味で使われていたらしい。「細かいことに拘泥せずさっぱりしてこせこそしないさま」を表現するために使った「軽妙で粋な(=しゃれた)物言い」は、単にその人のスタンスを示すための手段のひとつに過ぎなかった。しかしやがて明治になると、一番分かりやすい「物言い」に限定されて使われるようになったそうだ。
 このあたりの分析は大変に面白い。面白いのだが、ただ残念なことに「しゃれ」の概念についての分析は始めと最後にちらっと出てくるだけ。本書の内容は「言葉によるしゃれ」の分類に殆どが費やされている。

 「言葉によるしゃれ」についての分析が本書の眼目であるので、そちらにも触れておこう。「言葉によるしゃれ」にも細かなニュアンスや目的の違いによって、「秀句」「興言・利口」「こせごと・かすり」「口合・地口」「モジリ・語呂合わせ」「隠語(廓などで使用)」などさまざまな種類があるらしい。
 これらの説明のくだりを読んでいて一番困るのは、その「しゃれ」のどこが面白いのか?現代の我々には全く理解ができないという点。しゃれの意味を聞き直すことほど野暮なことはないが、しゃれがその当時の社会文化や通念を前提につくられている以上、説明を聞かない事にはその言葉の持つ真の意味が全く理解できないのだ。しゃれの真髄は当意即妙で気の利いた受け答えにこそあるわけだから、専門の研究者くらいの前提知識がないと、(頭で理解することは出来ても)直感的に面白さが理解できず欲求不満だけが溜まっていく。
 本書を読んで、もしかしたら「笑い」こそが専門家と素人を分ける試金石なのかもなあ――ということを考えた。“お気らく”では太刀打ちできない世界もあるということか。まあ、そりゃそうだ。(笑)

<追記>
 インタラクティブ(双方向)で世相を反映した軽妙なやりとりということでいうと、現代社会では何がいちばん近いだろう。例えば寄席で落語家が噺のマクラに観客と行うかけ合いとか?
 文字記録として残るという点では、ツイッターやSNSなどがいちばん近いのかも知れない。50年後や100年後の人達がツイッターの記録を読んだ時には、我々が過去の「しゃれ」を見た時と同じもどかしさを感じるのだろうか。細かなニュアンスが分からなくてもどかしいどころか、話されている内容そのものが全く理解できなかったりして。
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