『聖書の起源』 山形孝夫 ちくま学芸文庫

 講談社現代新書が絶版になってからの移籍で、新書の時には未読だった。日常生活には全く何の役にも立たないけれど、内容はめっぽう面白いという、まさにこれは「教養のため」の本の一冊。立花隆が薦めるような社会生活を営むのに必要な素養ではなく、純粋な好奇心としての教養であり、読んでいて心地がいい。
 内容は、聖書を信仰の対象としてではなく一つの研究対象として分析し、古代キリスト教の成立過程を探るというもの。まず一つ目の驚きは、どのようにして多神教世界だったシナイ半島で一神教であるユダヤ教が成立したか?という説明。それは都市居住者でもベドウィン(遊牧民)でもない牧畜民のユダヤ12氏族が、わが身を守るために団結するために必要とした象徴だった。そして「汝~するなかれ」で有名な十戒は、当時のユダヤ民族の言語では「~してはいけない(禁止)」と「~するわけはない(意思表明)」が同義だったというくだりはまさに“目からウロコ”。人類にとって一神教の発明は文字の発明に匹敵するほどの影響を与える大発明だったと思うが、今まで疑問だったその成立過程が何ら神秘的な誤魔化しもなく論理的に説明されている。
 2つ目の驚きは歴史上の実在人物であるイエスが、いかにしてキリスト教の信仰対象として祀り上げられていったか?という説明。成立時期が互いに異なっているマタイ、ヨハネなどの各福音書において、それらの中の同じエピソードについて記述の違いを緻密に分析することで、後世どのようにイエスの言動が脚色され、一つのストーリーに沿って編集されていったか、その痕跡が手に取るように見えてくるというくだりは、これまた“目からウロコ”。イエスが行った様々な奇跡が、当時盛んだった治癒神信仰やユダヤ教のラビの伝承との関連で説明できてしまうあたりは、まさに読んでいてゾクゾクしてくる。
 まるで網野善彦の著作を読むかのように、教科書や受験のための知識ではなく本来の“知の道具”としての歴史学は、スリリングで面白いものだということがよくわかる。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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