『シモーヌ・ヴェイユ入門』 ロバート・コールズ 平凡社ライブラリー

 シモーヌ・ヴェイユといえば20世紀前半に活躍した女性思想家であり、そのストイックな性格と壮絶な最期により現在では半ば伝説と化している。最晩年にはグノーシス主義のようなキリスト教系の神秘思想への接近でも知られているが、本書はそんなシモーヌの生涯を、悩みながら行動した等身大の思想家として描いた本である。
 原著はアメリカのラドクリフ大学による著名な女性たちの伝記をまとめた叢書の一冊で、著者の本業は精神科医。したがって哲学や思想の中身そのものというよりも、どちらかといえば(心理学的な観点から)思想が生まれた背景について論じている感が強い。また邦題では「入門」となっているが、原著はもともとそのつもりで書かれたものではない。ヴェイユの人生や残された断片的な文章から読み取れる彼女の思想について、考察を行うのが主な狙いであって、決して全体像を判りやすく紹介するために書かれた本ではない。

 シモーヌが活躍した時代はまさに第2次世界大戦の真っただ中。ユダヤ系フランス人である彼女は(当然のことながら)ナチスドイツを始めとする特定の者への社会的圧力や暴力への抵抗を、思索でも実践でも繰り広げた。その他にも、様々な政治的発言や倫理的な探求、社会システムに関する考察など、彼女の活動の範囲は多岐に亘っている。
 食事を自ら絶ち、(事実上の)飢餓による死に至るまでの晩年の5年間、彼女が救済手段として急速に接近していったのはキリスト教信仰であった。彼女の宗教的な面で重要なのは、「堕落した」ローマ・カトリックへの侮蔑から独自の思索によってキリスト教の原初へと遡行し、最終的には異端・カタリ派を彷彿とさせるほど“純粋”な信仰に立ち返った点。(*)アッシジの聖フランチェスコに対して愛着を感じていたようだが、自分も好きなのでこのあたりの彼女の考えはとても良く理解できる気がする。

   *…ユダヤ系という出自をもつ彼女が、ユダヤ教を否定してキリスト教に帰依したのは
     大変に興味深い。

<追記>
 いかにも「アメリカ的」と感じたのは、著者本人の身近にいる人々へのインタビューがなぜだか数多く収録されている点。別に彼らがシモーヌを理解する上ですごく参考になることを述べている訳でもなく、著者の友人の声だとか、自分のクライアントである工場の労働者のコメントだとかが、いかにも演出的にあちこち挿入されているのは、なんだかテレビのドキュメンタリー番組を見ているようだった。本書のようにヨーロッパ的な知性をアメリカ的な知性のスタイルで料理しようとすると、どうしても安っぽい感じになってしまう。
 卑近な例を引き合いに出すことで、読者に身近に感じてもらおうという意図は判らないでもないが、本書でこのような手法を用いるのは如何なものだろうか。ワイドショー的な「軽さ」によるアプローチがとても有効なテーマも確かに世の中にはあるが、少なくともヴェイユのような骨太の思想家を語るには、似つかわしくないと思うよ。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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