『エロス的人間』 澁澤龍彦 中公文庫

 「エロティシズム」を題材にして澁澤が60年代に書いた文章を、編纂して一冊にしたもの。前半は割と「エロティシズムの定義」に関する学術的な話が多いが、後半は吸血鬼とエロスの話だの黒魔術に関する小論だの、バラエティにとんだ内容になっている。河出文庫と違って中公文庫には少し固めの物が多くて、ご多分にもれず本書もどちらかといえば「エッセイ」というより「評論」と言った方がいいかも知れない。
 まず学術系のものとしては、文学におけるエロティシズムと代表的作家について論じた「絶対と超越のエロティシズム」に始まり、人間のエロスの本質について気の向くままに考察した「エロス、性を超えるもの」「ホモ・エロティクス」など。その他としては『泥棒日記』や『花のノートルダム』などで有名なジャン・ジュネに関する小文や、キリスト教における悪魔崇拝とエロスを論じた「黒魔術考」など。
 以下、特に面白かったところを抜粋しておく。

 巻頭の「絶対と超越のエロティシズム」では、シュールリアリズム詩人のロベール・デスノスという人物(知らない^_^;)が作家達について論評した著作を紹介している。その著作はかつて澁澤自身が翻訳して日本に初めて紹介したが、小部数であったため現在では殆ど入手不可能であり、改めて内容を紹介したとの由。その論によればエロティシズム文学には2種類あるとのことで、あまりそんな視点で“その手”の文学を考えたこともなかったので面白かった。デスノスが高く評価しているのはサドをはじめボードレールやカサノヴァなどの作家たち。それらに共通する特徴は「フェティシズム、男らしさ、精神的な愛、荘重さ」といったところだ。逆にボロカスに貶されているのはラブレーやフォンテーヌ、バルザックなど。デスノスはエロティシズム文学の中において、「形而下的、陽気、野卑、物質主義」といった内容を極端に嫌っているのがよく分かる。ラブレーの『パンタグリュエル』なんてすごく愉しいけどなあ。でもその愉しさそのものがデスノスにとっては我慢できないようだから、「趣味が合わない」としか言いようがない。子供じみた「明るいスカトロ」などは一番嫌われるパターンだね。(笑)
 澁澤自身はどうか?というと、(自らの意見を表明するのを慎重に避けているが、)かつて本書を翻訳したのは他ならぬ澁澤自身だし、今回の文章を読んだかぎり、少なくともデスノスが評価している作家たちが澁澤の好みでもあるのは間違いなさそうだ。もっともラブレー達が嫌いと書いているわけでもないが。
 ちなみにデスノスの著作自体はかなり前のものなので、バタイユ/ジャン・ジュネ/ナボコフ/マンディアグなど20世紀になって登場したエロティシズム文学の作家たちは、当然のことながら取り上げられていない。そこでこれらの作家について澁澤の評価を知りたいと思ったが、それについても「評価は今後の課題」として言及を避けている。自分の趣味で好きなように文を書き散らしている印象が強い澁澤だが、意外と慎重なところもあることを知った。(いま挙げた作家たちについては、別のエッセイで頻繁に取り上げたりもしているので、結局は澁澤の“お気に入り作家”になったようだが。)

 次は本書中で(質的にも量的にも)いちばん読み応えがあった「ホモ・エロティクス」について。これを読む限りでは、澁澤はえらくフロイトをかっているようだ。面倒なので時系列的な順番は調べてないけど、ユング心理学が日本に体系的に紹介される前に書かれた文章なのかな? フロイトはエロス(生/快感原則)とタナトス(死の衝動)を人間の精神活動の根底においたので、澁澤の趣味にぴったりくるのは判るけど。ユングだって錬金術の寓意だとか澁澤が好きそうなネタは色々あるのにね。しかし澁澤の本を全部引っ張り出してユングに関するエッセイがないか調べるのも億劫なので、今はわからないままにしておこう。(笑)
 澁澤はこの中でフロイトを引き合いに出し、死とニルヴァーナ(涅槃)は同一であって、人間が目指すべきはエロス/快感原則とニルヴァーナの再統合にあると主張している。もしもこの考えに賛同できるとすれば、以前から悩んでいたアポトーシス(細胞自滅)とオートポイエーシス理論の矛盾についても、自分の中で整理が付けられるかも知れない。ここらへんのアイデアは、本書を読んだことによる意外な拾いものだった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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