『怪人対名探偵』 芦部拓 講談社ノベルズ

 『殺人喜劇の13人』で第1回鮎川哲也賞を受賞してデビューした著者による、江戸川乱歩の『陰獣』『パノラマ島奇談』『人間椅子』などの”通俗モノ”を彷彿とさせる本格推理。次々と奇怪な方法で残虐な殺人を犯していく「殺人喜劇王」に対して芦部のシリーズ探偵である森江春策が挑むというもの。
 作者自らが「乱歩へのオマージュ」と言っている点からも判るように、物語の道具立てとしては申し分ない。しかし如何せん乱歩に求めるものが自分とは違っているようで、残念ながら趣味には合わなかった。いい題材なのにもったいないなアという感じ。
 一般の人々の身に世界から突然降りかかってくる理不尽かつ執拗な暴力(悪意)の描写が、被害者の視点で全体の3分の1にも亘って延々と続き、読んでいるうちに陰々滅滅としてくる。さらに一部メタフィクション的な構成をとっているために、どれが物語のフレーム(枠)なのかも判らなくてストレスが溜まってくる。(何の効果を狙ったのか知らないが…)
 しかし物語としての出来はともかくとして、本書を読むことで色んなことを考えるきっかけになったので、充分にモトはとれたと言えるだろう。(笑)

 この本を読んで強く感じたこと、それは「自分はもしかしたら乱歩が好きだったんじゃなくて、“怪人”が好きだったのかも知れない」ということだ。
 自分にとって「怪人」とはある意味「様式美」の世界。「猟奇的」であるのは重要なファクターだが、リアルに「猟奇」そのものを追求する「スプラッター」とは違うはず―という感覚がある。「猟奇的」と「猟奇」、言葉にすればわずかな違いだが、自分にとっての意味合いはかなり違う。舞台演出に喩えるなら、例えば血糊を沢山使って臨場感を高めるのは一向構わないが、リアル感を追求するあまりに本物の鶏の血を使ったとしたら、それは単なる悪趣味に過ぎないということ。「猟奇的」とはあくまでも「らしさ」であって、実物とは違うのだ。(*)「猟奇的」を標榜する小説において直接の殺害描写を延々と続けてしまっては、(自分の基準からすれば)「下品」極まりない。そのあたりを思い切って刈り込んでくれれば、もっともっと愉しめる作品になったろう。
 まああれこれ書かせてもらったけど、単に通俗モノがそれほど好みでないのと、冒頭にわざわざ少年探偵モノのテイストを持ってきておいて…というだけの理由だが。(笑)

   *…マンガ家・川崎ゆきおの『猟奇王シリーズ』なんか、このあたりのツボを
     良くわきまえて描いてると思う。

 折角だから、自分が惹かれる乱歩的なロマンについてもう少し触れておこうか。
 「猟奇的」に続くもう一つの大事な要素は「冒険」。人は冒険を通じて「宝(=価値ある何か)」を手に入れることができる。冒険には洞窟や敵のアジトなど神話的ともいえる道具立てがあり、かつ“死の危険”と隣り合わせであることも重要。さらにイニシエーション(成長儀礼)として冒険を考えた場合には、子供(=社会で成人と認められていない者)の視点も不可欠になる。『魔術師』や『パノラマ島奇談』など乱歩の大人向け通俗小説を支持する人々においても、「見てはいけない大人の世界」をのぞき見した子供時代の体験や、または子供時代の視点というフィルターを通して評価しているところは無いだろうか。
 子供にとっては大人にとって何でもないこと ――例えば知らない街で迷子になったり、夕暮れが迫る帰り道でいつまでも家がみえてこない不安なども、“死の危険”に直結する不安であったはず。そんな時に登場する“名探偵”とは、さしずめ神話的な英雄にあたるのかも知れない。
 この「子供の視点」からは、もうひとつの重要な要素である「ノスタルジー」が導かれる。時に時代錯誤とすら思えるほどノスタルジックな道具立ても、この手のミステリの舞台を構成する背景として不可欠な要素であるだろう。
 まとめると「猟奇的・冒険・ノスタルジー」の3つを兼ね備えたのが、自分の求める理想的な「乱歩」なのだということ。

<追記>
 現代に猟奇的な面白さを蘇らせようとしたら、ノスタルジックな舞台装置としては70年代の大阪万博なんかが手ごろではなかろうか。(『三丁目の夕日』は時代が古すぎる。当時の子供たちが夢中になった“少年探偵団ごっこ”自体が、もはやノスタルジーを掻き立てる背景にしかなりえない。)その意味で、『20世紀少年』をサブタイトルの「本格科学冒険漫画」としてではなく、乱歩作品が当時担っていたものを現代に再現するという文脈で読み解いていくと面白そうだ。マンガや映画の評論は読まないので知らないけど、誰か書いてる人居るかな?
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