『珠玉』 開高健 文春文庫

 うーん、やっぱりすごい。1989年に癌でこの世を去った文豪・開高健の遺作となった短篇集で、テーマはタイトルからも判るように「宝石」。この本、同じく文春文庫に収められている短篇集『ロマネ・コンティ・一九三五年』とともに、今まで何度読み返したか憶えていないくらい読んだ。
 「掌のなかの海」「玩物喪志」「一滴の光」という3つの連作掌編が収録されていて、取り上げられる宝石はそれぞれアクアマリン、ガーネット、ムーンストーンである。各々の宝石がもつ青色/緋色/乳白色という3つの色が何を意味するかは、読んだ人にだけのお楽しみということにして、ここでは敢えて触れずにおこう。(笑)
最初の「掌のなかの海」は遠洋航海の船医との交流を取り上げた作品だが、「卒塔婆小町(*)」を連想させるような瞬間の痛烈が印象に残る。次の「玩物喪志」は中国料理店の店主との交流を巡る話、そして最後の「一滴の光」はある女性との交流を描いて鮮烈である。
 「文房清玩(ぶんぼうせいがん)」とか「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」、それに「道道無常道 天天小有天(≒この世に絶対不変の真理などないが、しかしまあ毎日、ささやかな別天地というものはある)」といったお気に入りの言葉は、全てこの本で教えてもらった。

   *…能楽の演目のひとつ。『ロマネ・コンティ・一九三五年』の表題作には開高健による
     名訳が収録されているが、どんな内容かだけ知りたい人はネットで「卒塔婆小町
     (そとばこまち)」と入力して検索すればすぐに出てくる。

 開高の小説の基になっているエピソードの多くは、実は『白いページ』や『ベトナム戦記』など著者のエッセイ/ルポルタージュで読むことが出来る。しかしそれが開高の中で蒸留されて一篇の作品になって出てくると、全く違うものに昇華されており、エピソードを「知識」として知っている事は、何ら作品の価値を減ずるものでは無いことが判る。
 よく「無人島に持っていく本」という話題がでることがある。もしも1冊しか選ぶことが出来ないとしたら、しかもこれから一生他の本と交換できずその1冊を繰り返し読むしかないとしたら、果たしてどんな本を選ぶだろうか? 少なくとも『ロマネ・コンティ・一九三五年』と『珠玉』の2冊は、どちらも有力候補になるのは間違いない。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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