『薔薇の女』 笠井潔 創元推理文庫

 前に買ったのが家のどこかにあるんだけど、ブックオフで安売りを見かけたら読みたくなってつい買ってしまった。(笑) なんせこの「矢吹駆シリーズ」は第1作目の『バイバイ、エンジェル』が自分にとって“運命の出会い”の1冊であり、ミステリの中でもいちばん好きなシリーズだから仕方が無い。今までに何度読みかえしたことか。
 折角の機会なので、備忘録としてこのシリーズについて下記に整理しておきたい。読んでない人には何のことかさっぱり分からないだろうけれどご勘弁を。

■『作品名』 ――ミステリとしての設定・ネタ/とりあげられた思想ネタ
 ①『バイバイ、エンジェル』
   首無し死体/党派観念(自著『テロルの現象学』で分析されたテロ思想)
 ②『サマー・アポカリプス』
   ゴシック(古城)&見立て殺人/シモーヌ・ヴェイユ&キリスト系神秘思想
 ③『薔薇の女』
   バラバラ殺人(快楽殺人)/ジョルジュ・バタイユ&両性具有としての天使思想
 ④『哲学者の密室』
   密室殺人&ナチスの戦争犯罪/マルティン・ハイデッガー&エマニュエル・レヴィナス
 ⑤『オイディプス症候群』
   孤島と迷宮/ミシェル・フーコー&ルネ・ジラール
 ⑥『吸血鬼の精神分析』
   フロイト&ラカン、P・ジャネ&クリステヴァ(らしい)
                      …単行本になってないので未確認
 ⑦『煉獄の時』
   ?…連載中なので未確認

 うーん、こうやって並べてみると改めて見事なものだ。取り上げる思想もミステリとしての設定も1作ごとに全部変えていて読者を飽きさせない。全部で10作になるらしいので、これからどんな思想家が取り上げられるのかとても楽しみ。矢吹駆は果たして宿敵ニコライ・イリイチを倒すことができるのか? というシリーズ全体の仕掛けも気になるところ。

 ミステリ以外の過剰さを売り物とするものに所謂「アンチ・ミステリ」と呼ばれる一群の作品があるが(*)、どちらかというとそれらの作品では設定やトリックなどミステリとしての完成度は二の次にされている(気がする)。しかし矢吹駆シリーズにおいてはミステリとしても手を抜かずに一級品の出来に仕上げてある。凄いなあ。
このシリーズを自分がいちばん評価しているのは、ミステリの設定と取り上げられた思想とが有機的に絡み合って切り離せないところなのだけれど、その意味で総合的に優れているのはやはり『サマー・アポカリプス』と『哲学者の密室』の2作だろう。
 本書『薔薇の女』においては、犯罪自体とバタイユ思想が直接結びつく訳ではないので、その点はちょっと弱い。でも単純にミステリとして考えた時には出来はかなり高いと思うのだ。ジャン=クリストフ・グランジェによる傑作ミステリ『クリムゾン・リバー』を読んだ時の感じにも似た、猟奇的なミステリ独特のドキドキ感が病みつきになる。

   *…小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』、
     中井英夫『虚無への供物』など。「アンチ・ミステリ3大奇書」とも、
     竹本健治『匣の中の失楽』を加えて4大奇書とも呼ばれてるらしい。

<追記>
 上述のアンチ・ミステリ4作品については、(どれもスゴイとは思うけど、)もう一度読めと言われると正直ちょっと辛いかも。(笑) そもそもが「アンチ○○」と呼ばれる作品は、どの分野でも同じようなものかもしれない。「アンチSF」として有名なB・W・オールディスの『世界Aの報告書』を読んだ時もキツかったものなあ。ディック『ヴァリス』の面白さだって、物語としてではなく、図らずもその枠からからあふれ出てしまった過剰な部分にこそあるわけだし…。
 その意味でも、笠井潔の矢吹駆シリーズが「過剰」且つ「面白い」というのは、とんでもないことだと思うのだ。(知る人ぞ知るディレーニィの大著『ダールグレン』が出版された暁には、果たして最後まで読み切れるのかとっても不安。ピンチョン『重力の虹』の時みたくなったりして。)
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