2017年6月の読了本

『死せる神々 ロシア幻想短編集III』A.アンフィテアトロフ他 アルトアーツ
20世紀初頭のロシアに花開いた幻想文学の系譜を紹介するアンソロジーの第3弾。バラエティにとんだ6つの短編を収録する。一般書店で売っているものではないので通販を利用したのだが、一昔前なら絶対に入手できなかったような作品が読めるのはネット時代のいいところだと思う。収録作品の中ではケン・リュウの中国ファンタジーを思わせる「オパール」や、ただひたすら圧倒される「沈黙」が好かった。

『里山奇談』coco/日高トモキチ/玉川数 角川書店
いわゆる「異界」である山や川辺を訪れた人々が体験した奇しい話の聞き語り集。ページをめくると目の前に不思議な世界が広がってゆく。柳田國男や柴田宵曲、根岸鎮衛『耳嚢』などが好きな人はかなり気にいるのではないか。たんに怖いというより「畏れ多い」と言った方がしっくりくる。実話系遠野物語とでも呼べば良いだろうか。マタギの人たちに山奥での体験を聞いた『山怪』も面白かったけど、こちらは舞台が里なのでよけい身近に感じる。いたずらに怖がらせようとするのは興ざめだけど、こういうのは好きだ。

『奇妙で美しい石の世界』山田英春 ちくま新書
本業の装丁家としてだけでなく瑪瑙コレクターとしても広く知られている著者が、「模様の美しい石」の数々に関する様々なエピソードをカラー写真とともに紹介した本。風景画のように見える「風景石」や樹木のように見える石など、収録された写真はどれもたいへんにとても美しい。それにしても瑪瑙がこんなにきれいな石だとは知らなかった。語られている薀蓄も愉しい。たとえば「中国で、美しい石「玉(ぎょく)」といえば翡翠だが、日本で「玉」といえば、まず瑪瑙やジャスパーなのだ。「玉川」と名がつく川は上流から瑪瑙などの美石が流れてくる川であることも多い。」世界を広げてくれる本は読んでいて愉しい。

『ブローティガン 東京日記』R.ブローティガン 平凡社ライブラリー
『アメリカの鱒釣り』や『西瓜糖の日々』といった作品で有名な作家・詩人の著者が、1976年5月から6月30日までの東京訪問時に書き留めた詩をまとめたもの。全く馴染みのない文化、言葉すら通じない異国でひとり過ごす寂しさと見知らぬものへの興味を独特のリズムで描きだす。布団の中でぱらぱらとページをめくっていると、ついうとうとしてしまう。ブローティガンは読んでいて気持ちいいのだ。
「ねむりのないねむりのあとに ふたたびねむる ねむること なく」(「ぼくのベッドを見る/午前三時」)

『星の子』今村夏子 朝日新聞出版
わが子の病気をきっかけにして「あやしい宗教」にのめりこんだ両親。娘の目を通して彼らの日々の生活が淡々と語られる……。いつも氏の作品ではいびつな人間関係を通してぞわぞわと心を逆なでにされる。無事に毎日を送りたければ気づいてはならないことがある。気付けば耐えられなくなるから。描かれぬものこそが雄弁に語りかけてくて止められない。
描かれているのはひと言で言えば「しあわせ」と呼ばれるものなのかもしれないが、それはよくあるように健やかな状態が失われて感じられるといった安直な描き方ではない。どこまで歪めてもそれを「しあわせ」と呼ぶことができるのか、ぎりぎりの判断を強制する。そして極限まで歪んだ「しあわせ」は、そのまま「不気味の谷」と化して読者にせまってくる。このあたりは同じく「痛み」をテーマとするアンナ・カヴァンの作風とも違っている。なぜならカヴァン作品の語り手は自らの不幸を直視しているから。そう考えると今村作品はカヴァンよりもある意味さらに残酷な物語と言えるかもしれない。

『夜の夢見の川』T・スタージョン、G・K・チェスタトン他 創元推理文庫
翻訳家・アンソロジストの中村融氏による〈奇妙な味〉の作品を集めたアンソロジーの第2弾。恐怖あり不思議あり余韻ありの好作品集で、前作『街角の書店』よりさらに薄暮から暗闇にかけての気配が強まった気がする。(なにしろ冒頭の「麻酔」には度肝を抜かれた。)
「麻酔」「バラと手袋」「お待ち」の後味の悪さに「終わりの始まり」「ハイウェイ漂泊」「銀の猟犬」や「心臓」「怒りの歩道」の不安な気持ち、「アケロンの大騒動」と「イズリントンの犬」のユーモアに「剣」と表題作の底知れぬ怖さ。何れ劣らぬ十二の秀作揃いで“ほの昏い”読書が堪能できた。

『少年十字軍』マルセル・シュウォッブ 王国社
シュウォッブは一部に熱狂的なファンを持つ作家。本書は彼の『黄金仮面の王』『二重の心』という二つの初期作品から厳選して訳出した短篇集で、ポーやダンセイニ、ヴァーノン・リーなどに共通する幻想と衒学と愉しさに溢れている。休日にパスタとワインの昼食を摂って、午後の風に吹かれながらリクライニングチェアで本書を読んだらまさに至福の時間だった。特に好みだったのは「黄金仮面の王」「大地炎上」「リリス」「少年十字軍」。ちなみに訳者の多田智満子氏はアルトー『ヘリオガバルス』やユルスナール『東方綺譚』など手がけられていて、格調高い訳文も好かった。

『花の命はノー・フューチャー』ブレイディみかこ ちくま文庫
イギリスの港町ブライトンで労働者階級の連合いと暮らす著者による強くて痛快なエッセイ。氏が語るのは「逆境」が世代を越えて受け継がれるクラスタで暮らすということ。センチメンタルな気持ちなど吹き飛ばして生きる姿はパンク。読んでいて気持ちがいい。
「『そんなに未来に希望が持てないのなら、生きる甲斐がないじゃないか』と言われることがよくある」
「最後には各人が自業自得の十字架にかかって惨死するだけの人生」
「それでも(中略)生きようとするからこそ、人間の生には意味がある。そういう意味だったら、わたしもまだ信じられる気がする」
それにしてもシモーヌ・ド・ボーヴォワールに雨宮まみ、こだまに笙野頼子、そしてチママンダ・ンゴズィ・アディーチェにブレイディみかこと、読むと無性に何かを語りたくなる本の著者がきまって女性というのは、きっと何か意味があるという気がする。

『東方綺譚』マグリット・ユルスナール 白水uブックス
東方の地を舞台に著者が自在に想像を膨らませて描いた九つの物語。多田智満子氏の美しい訳文が幻想的な雰囲気を一層かきたてて素晴らしい。冒頭の「老絵師の行方」と掉尾を飾る「コルネリウス・ベルクの悲しみ」がとても気に入った。

『本棚探偵 最後の挨拶』喜国雅彦 双葉文庫
ハードカバーでも読んだのだが、文庫になったのを見かけたらつい買ってしまった。人気ギャグ漫画家による古本とミステリをテーマにしたエッセイの第四弾。著者は本書で日本推理作家協会賞を受賞した。この巻で一旦打止めとのことでちょっぴり寂しい気持ちがするが、でも読み返したらやっぱり面白かった。「文庫本のためのあとがき」も新たに書き下ろされているのでお買い得。

『むずかしい愛』カルヴィーノ 岩波文庫
境遇も性別も様々な人々による「冒険」を通して、人との触れ合いの不在と、そしてそんな世界で生きていくということの一瞬を照射する。カルヴィーノの作品ではときどきハッとするような文章にぶつかる。といっても大上段に構えた警句とかではなく、わけのわからなさにどきっとするのだ。たとえば「幸福とはウズネッリにとって、宙ぶらりんの状態、息を殺して生きるようなものだ」とか、あるいは「彼は藤の花をながめていた。いかにも藤の花のながめ方を心得ているといった様子で、かれは藤の花をながめていた。」といった文章。やはりどう考えても変だ。カルヴィーノの魅力はもしかしたらこういった「わけのわからなさ」にあるのかも知れない。最初はすこし戸惑ったが、後半の「ある読者の冒険」からツボに入った。「ある夫婦の冒険」「ある詩人の冒険」「あるスキーヤーの冒険」の流れはちょっと奇跡っぽいとさえ思う。
(SFファンのための追記:ふと思ったのだけれど、本書のテーマである「愛(=コミュニケーション)」の不在や不可能性は、スタニスワフ・レムの『エデン』や『ソラリス』といった作品と共通するところがあるかもしれない。)

『ヒドゥン・オーサーズ』西崎憲/編 惑星と口笛ブックス
ついにでた電子書籍オリジナルの叢書〈覚醒と口笛ブックス〉の第一弾。(大前粟生氏の短篇集『のけものどもの』と同時発売。)同じく西崎氏の編集で書肆侃侃房から出ている文芸誌『たべるのがおそい』と同様に、小説だけでなく詩や短歌などジャンルミックスの作品集となっているが、こちらの方がより「尖がって」いるような気がする。たとえば冒頭の作品は、我々の住む世界とは全く繋がりのない(因果律も異なる)世界で、異質な人々が紡ぐ物語。もしも我々自身と共通するものがあるとすれば、それは 唯一彼らが感じる情動ぐらいなものなのだ。こんな調子で最初から最後まで、読んだことがないような作品が続く。従来の商業枠には収まりきれない作品を収録したショーケース的作品集といえるだろう。
特に好みだった作品は、大滝瓶太「二十一世紀の作者不明」、斎藤見咲子「マジのきらめき」、大原鮎美「月光庭園」、野村日魚子「夜はともだちビスケット」、ノリ・ケンゾウ「お昼時、睡眠薬」、伴名練「聖戦譜」、岡田幸生「『無伴奏』抄」、深沢レナ「芋虫・病室・空気猿」、深堀骨「人喰い身の上相談」あたりだろうか。
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こんにちは。読書とその周辺をこよなく愛してる舞狂小鬼さんの姿勢に、私の10代〜30代の頃の自分に重なる所があり、強く共感しながら読ませてもらってます。ツィッターの爆読ぶり、嬉しいです。(とは言え私の場合は古めの日本SFが中心だったし、今は目が悪くなりとんと読書量は落ちましたが)
さて、図々しいお願いですが、読み終えた本の行方はどうしてるのでしょうか。ツィッターの写真には本棚の一部が写ってるようですが、舞狂さんの大量の本の保管方法は?私の寝床には溜まってゆく本が囲んでおり、女房のストレスになってるようですが。
気が向いたら、ツィートの中で時々はお知らせ下さると嬉しいです。
舞狂さんの読書魂がこれからも益々続く事を応援してます。

ZUZU様

こんにちは。
ブログのご訪問ありがとうございます。いやお恥ずかしい、ひたすら本を読みまくる変なオヤジで申し訳ありません(苦笑)。

本は溜まりますよね。私もとてもエラそうなことは言えません。今はスペース的に少し余裕が出来たのでいいですが、以前は本当に困っていました。基本的には「おそらく二度と読まない本」「これから何度か読み返す可能性がある本」「ずっととっておきたい本」のように読了本を区分けしまして、もう読まない(だろう)本は古本屋に売りに行っていました。読んだ本の感想を書いたり、それをブログにアップするようになったのもその流れです。(備忘録を兼ねております。)それでもどんどん溜まるわけですが......。

ツイッターでも収納について機会があれば呟くことにいたしますね。またこれからもよろしくお願い致します。
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